鈴木雅選手がトレーニングをディープに、細かく紐解いていくこのコーナー。今回はきれいなシックスパックをつくりだす腹筋のトレーニング、そしてマニアックな部位ではあるが重要な筋肉であるカーフの鍛え方を解説します。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩
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腹筋
「腹筋」の構造とその動き
腹筋は正面の腹直筋、いわゆる「脇腹」の外腹斜筋、その下に位置する内腹斜筋、さらにその下にある腹横筋などで構成されています。クランチの動作では、後頭部に両手を添えて頭を起こす初動で腹直筋の上部が働き、肘を折りたたみ脇を締める動作で外腹斜筋が働きます。そこからさらに丸め込むことで腹直筋下部にも効き、さらに上体を起こすことで腸腰筋、腹横筋が働きます。
私は腹筋が弱点でした。克服するために腹筋のトレーニングをやり込んだ時期があったのですが、外腹斜筋ばかりに刺激がいき、腹直筋にダイレクトに効くことがあまりありませんでした。そこで自分の体型を考え、動作を分析したところ、私の場合は初動の勢いでそのまま丸め込もうとしていたことがわかりました。初動で外腹斜筋が働いて、そのあとの動作では負荷が抜けてしまっていたのです。
「シックスパック」という言葉がありますが、腹直筋は人によっては8個、10個に割れています。そのそれぞれはつながってはいますが、構造的には1個ずつ個別に動くことができます。つまり、1個ずつ折りたたむように丸めていかないと、刺激されない部分が出てきてしまいます。初動から惰性で丸めてしまうと、腹直筋下部は刺激されないのです。そのため、私は腹直筋を刺激するために、あえて可動域を制限して腹筋のトレーニングを行うようにしました。外腹斜筋と腹直筋上部が働かないポジションから動作をスタートさせるのです。詳しい方法は、エクササイズ紹介の項で解説します。
動作のポイント
腹筋のトレーニングは、素早く動かすのではなく、しっかりとコントロールしながら行うことが大事になってきます。腹筋は胸、背中、脚などとつながっているので、それらの筋肉に刺激を逃がそうと思えば、いくらでも逃がすことができます。コントロールせずに腹筋運動を行うと、腹筋を丸め込むのでなく、「上体起こし」のような動作になってしまいます。腹直筋よりも腹横筋や腸腰筋に刺激がいってしまうので、まずはコントロールできる範囲の中で鍛えていくことが大切です。骨盤のポジションにも注意が必要です。骨盤が前傾して腹圧が入りにくい状態でクランチなどを行ってしまうと、これも上体起こしのような動作になってしまいます。腹圧をかけられるように骨盤を立てる、もしくは軽く後傾させた状態でクランチを行うと腹直筋がきちんと働くはずです。
また、内腹斜筋は骨盤から肋骨までつながっています。つまり、両膝を閉じておかないと、骨盤が開き、内腹斜筋も伸びてしまいます。そうなると腹直筋を丸めることはできません。内転筋を使って、動作中に両膝を締めておく。これだけでも、腹直筋の全体に効きやすくなるので、ぜひ試してみてください。
回数、頻度について
腹筋のトレーニングは回数をこなした方がいいのか、それとも負荷を強くした方がいいのか。私もよく聞かれる質問です。その問いに対する正確な答えに関しては未知の部分もあるのですが、一つ言えるのは、回数を目指すと1回1回の動作が雑になってしまうということです。回数をこなすこと自体は悪くはないのですが、回数そのものが目的になってしまうのは考えものです。
また、負荷を強くすると、骨盤が立った状態になり、腹横筋や股関節を使いがちになってしまいます。さらに、回数をこなすときも高重量で行うときも、キツくなってくると主導筋ではなく、その他の強い部位に頼ろうとします。そういったことを考慮すると、しっかりとコントロールしながら10から30レップスほどができる負荷で行うのが効果的であるように思えます。頻度に関しては、私の場合は1、2日おきに週に2~3回。1種目につき3から4セットほど行っています。
カーフ
腓腹筋を鍛える種目
カーフ(下腿三頭筋)は腓腹筋とヒラメ筋によって構成されています。カーフの優先順位が低い方も多いと思いますが、ボディビル競技においては、カーフの太い選手は正面から見たときの力強さが感じられます。カーフが太い選手は、ポーズを取ったときに重量感を演出できます。腓腹筋はハムストリングス同様「スプリント筋肉」と呼ばれ、筋線維が非常に多い部分になります。陸上の短距離の選手がよく痛める部位でもあります。ダッシュなどの動作でよく使われる筋肉なのですが、構造としては複合関節、つまり膝とカカトをまたがっている二関節筋なので、足首や膝を動かすことで伸展・収縮します。
腓腹筋を鍛える種目としてはスタンディングカーフレイズ、45度シーテッドカーフ、ドンキーカーフなどがあります。動作では瞬発的に上げるようにします。ハムストリングスと連動している筋肉でもあるので、ハムストリングスが伸びる種目の方がストレッチ感は強くなります。収縮に関しては、これは上級者向けのテクニックですが、カーフを上げて膝を一度緩め、そこからさらに上げるとしっかりとした収縮感を得られます。二関節筋なので膝を伸ばした状態で上げて最後に膝を緩ませることで、強く収縮するのです。速筋線維が多い部位なので、私は15から20回くらいで設定しています。カーフは可動域が狭いので、レップス数は多めに行うようにしています。動作はコンセントリックの際に力強くギュッと収縮されるイメージで行います。
ヒラメ筋を鍛える種目
ヒラメ筋は遅筋線維が多い部位になります。しっかりとストレッチをすればヒラメ筋も腓腹筋も同時に伸ばすことができますが、収縮する際は速筋線維の多い腓腹筋の方が働きやすくなります。構造上は一関節筋で、「歩く」などの日常的な動作で使われている筋肉です。膝を緩めて足首だけ動かすことで、ヒラメ筋はより稼動しやすくなります。鍛えるには膝を屈曲した状態、シーテッドカーフレイズなどが主な種目となってきます。
遅筋線維が多い部位ということで、トレーニングは必然的にハイレップスとなります。15から20回と回数自体は腓腹筋の種目と同じですが、瞬発系の動きを使うのではなく、ゆっくりとていねいに動かすようにします。しっかりとヒラメ筋の動きを意識できるような動作です。腓腹筋のトレーニングは瞬発的に、ヒラメ筋のトレーニングは逆にじわじわと上げるようなイメージでやると良いでしょう。
動作のポイント
腓腹筋、ヒラメ筋ともに注意したいのはつま先の向きです。つま先はまっすぐ前を向けた状態で母指球を支点にして押し上げるようにします。腓腹筋は屈曲したときに働く筋肉です。スタンディングカーフなどでは、足幅を狭くして顎を引き、骨盤を少し後傾させることでより収縮感を得られます。ヒラメ筋は伸張したときに働く筋肉です。足幅は肩幅くらいに開いて骨盤を立て、顎は引かない。
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鈴木 雅
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。