昨年秋から年末にかけて開催され、大きな盛り上がりをみせたマッスルゲート。今年も今週末の2月13、14日の神奈川大会を皮切りに11大会以上の開催が予定され、12月5日はそのクライマックスとして第2回ゴールドジムジャパンカップが行われる。JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)との関係は? アンチドーピングは? 感染症対策はどうする? そもそもこれって「新団体」では? 気になることをマッスルゲート実行委員会の田代誠氏に直撃 !
取材:藤本かずまさ 大会写真:中島康介
――昨年は緊急事態宣言を受けてジムが約2ヵ月閉館され、なおかつ多くの大会が中止になりました。
田代 お客様からは「大会がないとトレーニングのモチベーションが上がらない」というお声をたくさんいただいていました。また、これは毎年のことなのですが、「今年は大会にチャレンジしたい」というお客様も多いと聞きました。「チャレンジしたい」と思うのは、その競技と“ご縁”があったからです。でも、せっかくご縁があったのに、大会自体がなくなってしまった。そのモチベーションを翌年まで保てるかというと、それは分かりません。我々としては、ご縁は大切していただきたい。そうした思いからマッスルゲート、ゴールドジムジャパンカップを開催させていただきました。
――緊急事態宣言明けには、10月4日の札幌大会を皮切りにマッスルゲート5大会、その集大成としてゴールドジムジャパンカップが行われました。
田代 我々が思っていた以上に多くの新人の方に参加していただきました。「今年チャレンジしたい」という方々の気持ちに応えたいという大会の主旨と、参加していただいた選手の層が合致していたと感じます。
――「トレーニングを始めてまだ数年」という選手も多かったです。
田代「まだ大会に出るのは早い」とご自身で思っている方もいれば、他の人からそういったことを言われたことがある方もいるかと思います。これはトレーニングをやられている方なら分かると思いますが、最初の1年目はすごいスピードで成長して、2年目、3年目まではそのまま伸びていくものです。でも、これは私もそうだったのですが、3年目以降からはそこまで大きくは変化しません。過去の自分を振り返ってみても、3年のときと10年目のときとで、大きな差はありませんでした。そう考えると、「1年目だからまだ早い」ということはないと思います。自分のレベルに合った大会には積極的に出るべきだと思います。
――また、「こんなにいい選手がいたんだ」という人材発掘の場にもなりました。
田代 マッスルゲート、ジャパンカップはJBBF様のルールに沿って開催して、JBBF様の大会につなげていくための活動をしたいと思っています。競技性を維持しながら、いろんなカテゴリーでいろんな方が出られる場をご用意させていただきたい。そこから今後、JBBF様の大会でも活躍しそうな新たな人材が出てくるのは非常にうれしいことです。
――また、JBBF同様、アンチドーピングを宣言した大会でもありました。
田代 JBBF様は他の競技団体に先駆けて1980年代からドーピングテストを実施しています。以来、35年もの間、アンチドーピングを貫いています。これはすばらしい取り組みだと思います。その精神を我々も受け継いでいきたいと思っています。明らかに使っている人、使っていない人というのは、見る人が見れば分かるものですから。
――マッスルゲート、ジャパンカップともに大きな盛り上がりをみせました。そして今年は12大会の開催が発表されました。
田代 昨年の開催地だった札幌や福岡、神戸、石川の現地の選手の方々から、また開催してほしいといったお声をたくさんいただけました。また、観戦された方から「開催されるのだったら、次は出たい」といったお声も頂戴しています。そういったニーズがあり、大会がトレーニングのモチベーションにつながるのでしたら、ぜひ開催させていただきたいと思いました。
――ゴールドジムが新団体を立ち上げた、というわけではないのでしょうか。
田代 我々は“団体”ではありません。マッスルゲート、ジャパンカップは、あくまで競技の裾野を広げるための“場”です。大会を開催するにあたって留意したのが、その地区でのJBBF様の大会日程です。日程は被らないようにしました。そして、各連盟さんと連携として、双方の大会に選手が出場できればと考えています。例えば、これはたまたまだったのですが、去年は11月15日にマッスルゲート石川を開催させていただきました。その2週間前の11月1日に、JBBF様の石川オープン選手権が開催されたんです。選手の中には、両方の大会に出たという方が結構いらっしゃいました。
――選手にとって2週間というのはちょうどいいスパンです。
田代 双方にいいつながりができたと思います。そういった関係を築いていくのが理想です。今年は実際に各連盟様と日程調整のお打ち合わせをさせていただくのが一番よかったのですが、会場を早く押さえなければならない関係で、日程が被らないことを確認させていただいた上で、大会スケジュールを組ませていただきました。9月はJBBF様の日本クラス別、日本マスターズ、オールジャパン選手権など大会が多いので、あえてマッスルゲートは開催しません。選手のみなさんには6月から8月のマッスルゲートをそうした大会に向けての調整の場にしていただければと思っています。
――ということは、2021年の大会も昨年同様、JBBF登録選手も出場が可能なのですね。
田代 登録していない方でも出ていただけます。
――東京連盟の日程はすでに発表されています。5月3日に東京オープンがあります。例年、東京オープンと東京クラス別の間が2ヵ月ほど空きます。マッスルゲート東京が5月30日に行われますが、両方の大会に出る選手にとってはちょうどいいタイミングで、その間に出場できる大会がもうひとつできました。
田代 私も選手なので分かるのですが、かつてはアジア選手権が8月後半か9月の頭、世界選手権は11月中旬から12月の頭と、国際大会の日程が明確に決まっていたんです。その選考大会である日本クラス別は7月、そして日本選手権が10月。私の場合は、7月に日本クラス別、10月に日本選手権、11月に世界選手権というスケジュールになることが多かった。すると、日本クラス別から日本選手権まで3ヵ月も空くことになります。
その間に何をしていたかというと、私の場合は8月に1本、9月に1本と、ゲストポーズを受けさせていただいていたんです。そうした、大会に向けての調整のタイミングも考えて、このような日程を組ませていただきました。
――アスリートファーストの日程です。
田代 私も競技者ですから、「自分だったらこういった日程がうれしいな」ということを念頭に置いて組んでいきました。
――例えば、東京選手権の前の調整としてマッスルゲートに参加することも可能ですね。
田代 ご自身がメインに考えている大会の前哨戦に活用していただいてもいいと思います。我々は団体ではないので、選手を「囲う」という発想はありません。いろんな大会に出ていただきたいと思っています。
あくまで最高峰は日本選手権を開催しているJBBF様です。その最高峰を目指す上での道のりを作っていきたいんです。例えば、マッスルゲートで実績を残した選手が翌年はJBBF様の大会にチャレンジするという、そうした道を作っていきたい。
――昨年同様、12月にはジャパンカップが行われます。マッスルゲートでクオリファイを獲得した選手がジャパンカップに出場できるのでしょうか。
田代 そうです。ジャパンカップのクオリファイにはある程度の基準は決めさせていただきますが、我々としては、いろんな方々にチャンピオンになっていただきたい。大会を運営していく中で、すばらしい選手たちに勝る演出というものはないんです。いくらライティングがきれいでも、オープニング映像が凝っていても、大会の主役は選手たちの身体です。すばらしい選手たちに集まっていただけるのであれば、「〇〇大会の優勝者のみ」などの縛りを設けるのではなく、ある程度の基準を満たせば出場できる、といった枠組みでいいのではないかと思っています。
ただ、あまりにも参加していただける方が多くなると審査の時間が取れなくなります。審査が流れ作業のようになるのは、我々の意図するところではありません。ですから、クオリファイの基準に関しては、手探りの部分はあります。
――マッスルゲートからジャパンカップ、というひとつのきれいな流れもできました。
田代 これは我々ではなく、参加された方々に作っていただいた流れです。マッスルゲートの各大会が終わったあとに、我々が予想していた以上に「クオリファイが取れたのでジャパンカップに出ます」といった声をいただけました。マッスルゲートだけで終わらずに、最終的な(ゴールとなる)大会を開催してよかったと思いました。おかげさまで見応えのある大会になりました。
――客席数の制限や観客の声出しの自粛、消毒、選手も出番直前までマスクを着用するなど、感染症対策が行われました。
田代 各自治団体からは、対策を実施しているモデル事業としての高いご評価をいただきました。また、今回はお客様の声出しも自粛していただきましたが、私は選手として、とてもよかったと思いました。私は野次などが嫌いなんです。選手や審査員の印象が、その声に引っ張られてしまうことも、ないとは限りません。(選手への応援は)拍手がちょうどいいのではと思っています。
――近年、ボディビルでは「掛け声」が面白おかしく取り上げられました。ああいったクローズアップのされ方は、選手としては迷惑だった?
田代 私はあまり好きではありません。ステージに上がっているときも野次は聞こえています。「〇番がいい」とか「〇番は××だ」とか、そういった声はあまりよくないと思います。観客が面白おかしい掛け声で盛り上がるというのは、大会としてどうなんだろう?という疑問はあります。また、(面白おかしい)掛け声を飛ばした方は、その選手のことはリスペクトしていても、他の選手のことまでリスペクトしているとは思えないんです。私は選手として(掛け声ブームは)疑問に感じていました。声を出して応援するなら「〇番、頑張れ!」くらいでいいと思います。その日のために作ってきた身体を静かに、じっくり見ていただきたいです。私個人としては、コロナが落ち着いたあとも、(マナーとして)静かにご観戦いただければと思っています。
――今週末の神奈川大会では昨年同様パワーリフティングの種目、また新たな試みとしてアームレスリングも行われます。以後の大会にも、そうしたボディ系以外の競技が行われていく可能性は?
田代 あります。ボディコンテストだけではなく、“トレーニング”という共通のフィールドの競技として、機会がありましたらぜひご一緒にやらせていただきたいと思っています。それぞれの協会様のご迷惑にならないことが大前提になりますが、我々としてはさまざまなチャレンジをさせていただければと思っています。
――昨年度のマッスルゲートは急に決まった大会であったにもかかわらず、選手たちはしっかりと絞っていました。参加者の熱意も感じられました。
田代 真剣にトレーニングして、真剣に調整した身体は一生の宝物です。一度でもそうした経験をすると、少し身体が鈍ったとき、運動不足になったときに「このくらいトレーニングをして、食事はこうして…」と、すぐに修正をかけられるようになると思います。お気軽に出ていただきたいですが、出場するからには真剣に取り組むことをお勧めしたいです。
――今後、さらに日程が追加されることは?
田代 あると思います。マッスルゲートをきっかけにして、多くの方々に羽ばたいていただければと思います。我々としては「最初に出た大会がマッスルゲートでした」と言っていただけるのが一番うれしいです。マッスルゲートでコンテストの楽しさを知って、その10年後に日本選手権で優勝するという選手が出てきていただけると、うれしいです。ぜひそのような選手にゲストポーズで凱旋していただきたいです。