40歳以上の選手たちで争われるボディビルのマスターズクラスには、世界でも珍しい日本独自の階級が存在する。世界選手権におけるマスターズクラスで最も年齢が高い階級は65歳以上級であったが、2019年に60歳以上級、65歳以上級が廃止に。55歳以上級が世界選手権での最高齢クラスとなった。
ところが、我が国には70歳以上級、75歳以上級、そして80歳以上級といった後期高齢者のクラスも開催されている。9月19日、神戸で行われた日本マスターズ選手権。その80歳以上級には11人の選手が参加。80歳を超える現役ボディビルダーが10人以上もいるというのも驚愕の事実ではあるが、それはつまり日本のボディビルダーの多くは禁止薬物に頼らず健康的に身体作りに取り組んでいることの証でもある。
その80歳以上級で5連覇、ボディビル競技では通算15度目の日本大会優勝に輝いたのが御年85歳の金澤利翼選手。現役最高齢選手であり最高齢チャンピオンでもある、ボディビル界の鉄人である。
「(ボディビルは)私の人生ですから。90歳までは頑張るつもりです。それから先は皺ができたり、身体にガタがきたりするかもしれませんが、100歳まで元気に生きて、頭もシャープで、世のおじいさん、おばあさんの模範になりたいと思っています」
2016年の時点での80歳以上級の参加者は4名。それがこの5年で3倍近くも増加。昨年はコロナの関係で大会自体がなくなってしまったものの、19年まで75歳以上級で活躍していた選手たちが80歳に達したことで一気に激戦区となった。
「これまで75歳以上級だった人たちが(80歳以上級に)入ってきたので、この階級も大変になってきたと思いましたが、でも優勝できるんじゃないか、いや優勝しようと思って頑張ってきました。ただ、1年ごとに年は取っていきます。身体に皺を作らない。ケガをしない。元気で生きること。これだけに集中してやってきました」
そのケガをしない秘訣は、「決して無理をしない」ことだという。
「若いころはベンチプレスは120㎏でできていたんですが、今は60㎏ができません。それでもこの身体を作れるということは、重いものが持てないのならば、頭を使いながら、試行錯誤しながらトレーニングするといこうことが重要なんです。私は85歳ですが、ケガも病気もしたことがありません。今年は(ワクチンの)注射は2回打ちましたが、それ以外は病院にいっていません」
日々の食事も実にシンプルなものだ。
「私は肉も魚も食べません。玄米、納豆、味噌汁だけです。それでも筋肉はつくんです。そういう一生を貫きたいです」
82歳、83歳のときには世界マスターズ選手権の55歳以上級に出場。フリーポーズを披露した際には観客から大喝采を受け、主催の世界連盟からは特別表彰を受けた。今年ももし世界マスターズ選手権が開催されるならば「出場する」という。
「世界にも貢献できていると思うと、ますます頑張らなきゃと思います」
世界に誇れる日本人がここにいる。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:中島康介
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。