感染症対策の一環で選手への声援や大声による応援は禁止されていたものの、彼女がステージに現れた瞬間、客席からはかすかなさざめきが起こった。10月3日、福岡で開催されたマッスルゲート九州大会。そのビキニ35歳以上160㎝以下級に出場した魚住マリア選手は、完成度の高い身体とエレガントな空気感で観る者の視線を一気に引き付けた。まるでヨーロッパのトップ選手のような、すでに優勝をいくつも経験してきたかのような雰囲気をまとってはいるが、じつはこの試合がデビュー戦だという。
「綺麗な身体になりたいと思って2年ほど前からトレーニングを始めました。ジムには大会に出ている友達もいて、またスタッフの方たちとも仲がいいんですが、そうした方たちから『出てみたら?』と勧められて、今回主人から OK をもらって出場しました」
魚住さんは美女が多い国としても知られるルーマニアの出身。14年前、友達の結婚式に出席するために来日した際に現在のご主人と知り合い、その後結婚。現在は福岡在住の専業主婦で、一児の母である。
「日本に来てからはずっと福岡に住んでいるのですが、最初は言葉に苦労しました。主人はルーマニア語は単語が分かる程度だったのですが、英語が話せたので、私が日本語を覚えるまではほぼ英語でコミュニケーションを取っていました」
そんな魚住さんがコンプレックスだった脚を細くしたいと思って始めたのが筋トレ。大会出場に向けて懸念されたのは育児との両立だったとか。だが、ご主人も元々エクストリームスポーツの競技者で「大会に出たいという気持ちはすごくよく分かる」と魚住選手の心境を理解。今回のエントリーに至った。
「減量は6月から始めて、6㎏落としました。食事は主人の分と私の分は別々に作りました。私のメニューは主にササミ2本にサラダ、お味噌汁、白ご飯です。炭水化物は朝と昼は食べて、夜は控えました。減量するのも初めてだったので、最初は何をどれくらい食べれば1日に必要なタンパク質が摂れるのか、炭水化物はどのくらい摂ればいいのかなどが全く分からず、トレーナーの方や友達に聞きながら進めていきました」
ポージングのレッスンは2回ほど受講して、あとは友達からアドバイスをもらったり、安井友梨選手の動画を参考したりしながら独学で習得。デビュー戦ということもあり、今回のステージでは練習通りにはいかなかった部分もあったとか。
「緊張して100%を出せなかったのが悔しいです。バックポーズとサイドポーズが綺麗じゃなかったと思います。できるはずなのにできなかったのが悔しいです」
しかしながら、このマッスルゲート九州大会では見事に優勝。次なるステージに駒を進めた。
「(この競技は)私に合っていると思いました。来年(の試合出場)についてはまだ考えていませんが、11月のゴールドジムJAPAN CUPには出たいと思います」
初戦で大きなインパクトを残した逸材は、続く全国大会でどのような爪痕を残すか。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:中島康介
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。