「もともと私は運動が苦手で、腕立て伏せや腹筋なども1回もできませんでした」。
そう語るのは、10月30日に開催されたマッスルゲート静岡大会ビキニ35歳以上160㎝以下級で優勝した渡井博子選手。それまではトレーニングとは無縁の生活を送っていたものの、5年前に友人の応援で観戦したビキニコンテストに魅了され「私もこのステージに立ちたいと思った」という。
【写真】記事後半に渡井博子選手の華麗なバックポーズなどを含む美ボディ写真もあり
「もっとも不得意そうなことだから、チャレンジしたくなったんです。苦手なことで何かを成し遂げたい、と思ったのがボディメイクを始めたきっかけです」
その1年後、2017年に競技デビューするも結果は最下位。しかし渡井選手の心の中に挫折や断念などの文字はなく、「何年かかろうが表彰台を獲るまで辞めないと決めました」。そして2020年のマッスルゲート東京大会では3位、2021年の西日本選手権では5位入賞。今大会ではついに優勝を掴み取った。
「早く表彰台を獲らないと辞められないでしょ、という気持ちで続けてきました」
そんな渡井選手の素顔はこの日の会場からほど近い場所にあるネイルサロンのオーナー。経営者としてのキャリアは20年。ボディメイクを始めてからは美肌、美ボディをコンセプトにしたカフェもオープン。多忙な日々を送っている。
「また私は母子家庭で子どもを4人育てているんです。さらにはPTAをやったり、経営者の集まりの役員をやったりと、毎日バタバタしています」
ハードな日常をこなしながら大会に向けてトレーニング。そこで重要になってくるのがタイムマネージメントだ。
「タイムマネージメントは『仕事の時間』『母親の時間』『1人の時間』『趣味の時間』などを1週間の中でどういった比率で行っていくか、ガントチャートを使って管理しています。よく『時間がない』という方がいますが、時間は自分で作るものだと思っています。トレーニングは週5回くらいで、食事はお弁当を作って(職場に)持っていきます。前の日の夜に作り置きをして、翌朝に持って出社します。いつも自宅に戻るのが夜になるので、2食分か3食分を作って持っていくようにしています。子どもたちの食事は、別に作ることもあれば、私の食事にもう一品足したり、調味料を変えてみたりすることもあります。ボディメイクのための食事は、子どもの成長期にもいいものです。だからあまり(親子で食事内容は)変えません。睡眠時間は、昔はショートスリーパーで平均4時間くらいでした。ボディメイクをするようになってから7時間は寝るようにしています」
そして地元開催となった今大会ではビキニだけではなく、さらなる筋肉量とハードな減量が求められるボディフィットネスにも初挑戦。2つのカテゴリーに出場した。
「次第に筋肉量が増えてきて、表彰台に上がった方よりも私のほうが筋肉量があったり、絞れていたりすることがあり、『私が勝てない理由は筋肉量や絞りではないんだな』『私はビキニには向いていないのかな』と思うようになったんです。ただ、ビキニとボディフィットネス、私がどちらに向いているかは実際に出場してみないことには分かりません。来年、どちらのカテゴリーに挑戦しようか?というのもあったので、(自分の適性を)見定めるためにダブルエントリーさせていただきました」
結果はそのボディフィットネスでも優勝。ビキニ、ボディフィットネスともに表彰台の中央に立ち、競技者としての可能性をさらに広めてみせた。渡井選手が競技デビューしたのは41歳。使い古された言葉ではあるが、志を立てるのに遅すぎるということはない。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:中島康介
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。