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【筋肉超人伝説】左上半身の筋肉の多くが麻痺してもボディビル全日本優勝を果たした”不屈の男”谷野義弘の復活劇とは(前編)

◆ミスすることは想定内?

ー 逆に、日本選手権のときは、フロントラットスプレッドのとり方からして、他の選手にない対策が感じられました。上位では、谷野選手だけが上体を被せ気味にするスプレッドでした。もちろん、被せるといっても、肩だけを前に出して、背中の広がりまで失ってしまう被せ方ではなく、上体の表面積自体が大きく見えるとり方でしたね。須江正尋選手を含めてみても、一番大きくとれているように見えました。

谷野義弘選手のラッドスプレッド

谷野 ポージングの技術一つで、自分の体を100%活かせるか、80%にするか、はたまた110%に見せるかこれは大きな問題ですよ。1年かけて"500g筋量が増しました" "1㎏筋量が増しました"という人が、"ポージングで2kg筋量が削れて見えました"というケースは多いですからね。自分なんかは逆にそういうケースに助けられちゃってます(笑)。ボディビルの場合は、審査員から見てナンボの世界だということを考慮に入れるべきですね。

ー そのことを今回の日本クラス別では、谷野さん自らが反面教師として証明することになったとも言えますね。
谷野 結局ね、日本クラス別という大会では手を抜いているわけではないんですけど、シーズン最初の大会だから、やっぱりいろんなミスが起こるんですよ。ダイエット面だったり、規定ポージングもそうだし、試合までの最後の1週間のツメにも出ます。それは試合のときに一番張るように食事の内容を変えたりする中でも結構ミスが出るんです。それをいつも、日本クラス別で実験して、それを反省材料として日本選手権、世界選手権と持っていっていたわけですよ。だから、身体が段々良くなってくるのは当たり前で、その代わり、絶対にシーズン最初の大会は、完璧にはいかないんです。何年やっててもね、一緒ですよね。だから、逆に言えば、日本クラス別に出ておいたほうが、その後の大会での調子が良くなるんですよね。
ー なるほど、敗因がハッキリしていたわけですね。だからこそ、次への取り組みにも迷いは出なかったと言えますね。
谷野 そうですね。まあ、相川君もね、だいぶ力をつけていて、当然、ミスを犯していても勝てる相手ではなくなっていますからね…。とにかくね、日本クラス別では、気持ちが大雑把になっていましたね。やっぱりそれまでは、自分の以前の身体を自分が知っていて、ショボくなっているのが明らかに分かっているんですよ。それは怪我の影響でトレーニングが思うようにできないことが原因だと、当然分かっていますから、凄いストレスでした。それがある程度治るメドが立ってきたわけですから、もう準備なんてどうでもイイや、結果なんてどうでもイイやってなっていたわけです。それでも今回は、最低限(準備面を)詰めていけば、前年よりは凄くなるということが感触としてあったから、結構楽しむことはできたんです。
ー とは言え、アジアンゲームズの出場権がかかっていた大会ですから、その機会を逃したかもしれない…しまった!という気持ちはあったのではないですか? まあ、結果的には代表として選ばれたわけですが…。
谷野 う〜ん、それはそうですね。でも、(たとえアジアンゲームズに行けなかったとしても、それはそれで)しょうがないですね。大きな怪我をしてしまったことはどうしようもないことじゃないですか。それがなかったら、物凄く勝負にこだわっていたんでしょうけど、自分の身体が明らかにショボくなっていたことは事実なんで、その状態で順位にこだわること自体がおかしいと思うのです。そもそも、次のアジアンゲームズには出られないだろうな…と思っていたくらいでしたからね。
(後編に続く)

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