東京2020オリンピックの舞台で見事、柔道73kg級で金メダルを獲得し、リオ2016大会から2連覇を達成した、大野将平選手。日本柔道界のエース、大野選手が5年前に行われた対談記事を紹介する(IRONMAN 2017年2月号、3月号より)。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩
2016年のリオデジャネイロオリンピックで、男子柔道は金メダル2個、銀メダル1個、銅メダル4個を獲得し、全階級でのメダル獲得を達成した。その大きな要因となったのが、ウエイトトレーニング導入によるフィジカルの強化である。ここでは、リオ五輪で日本人選手金メダル第一号となった大野将平選手の肉体強化合宿を取材。欧米選手に打ち勝つためのトレーニング方法とはいかなるものなのか。男子総務コーチの岡田隆さん、トレーニング指導担当の守田誠さんとの対談形式でお届けする
――岡田先生が柔道男子のナショナルチームをサポートするようになったのはちょうど、ロンドン五輪が終わった後とお聞きしました。
岡田 2012年の末に私が男子コーチングスタッフに加わり、その翌年に守田さんがトレーニング指導員として入られました。守田さんが常駐するハイパフォーマンスセンターの利用も、2014年くらいから高まっていきました。そう考えると、短い期間で結果を出せたと思います。
大野 ロンドンオリンピックのときは、僕はまだ大学生で代表選手のレベルには至っていませんでしたが、強化選手には入っていたんです。当時の合宿のメニューにウエイトトレーニングはありませんでした。井上康生監督が全日本男子の新監督に就任して、守田さん、岡田先生という専門家を招集して、僕らも少しずつ知識を蓄えていき柔道をやりながらその効果を少しずつ実感していきました。
――本日は背中のトレーニングを拝見しました。
守田 プル種目とロウイング種目を交互に行うという組み方をしています。今日はロープ登り、ワンハンドロウイング、チンニング、マシンロウイング、アイソラテラル・ラットプルダウン、ケーブルロウイングという流れでした。
――10回3セットというセットの組み方にボディビル的な要素を感じました。
守田 今は身体作りをする時期なんです。ボディビル的な「筋肥大」というよりも、「体づくり」というニュアンスです。トレーニングは中負荷、中反復回数で始めることが多いです。大野選手は普段は奈良の天理大学で練習しているので私が直接トレーニングを担当できる機会が限られているのですが、大きな試合が終わったあとはJISS(国立スポーツ科学センター)に来てもらって、体づくりを行っています。
大野 今の世界の柔道を見渡すと、ウエイトトレーニングは不可欠なものになっています。柔道は「心」「技」「体」の3つの要素で成り立っている競技だと考えています。この3つのなかで僕が海外の選手に劣っていたのが「体」でした。2016年までに、3つの要素すべてで海外の選手を上回ることを目標にして取り組んできて、そのためにウエイトトレーニングにも力を入れてきました。また、ウエイトトレーニングは僕の柔道のスタイルともマッチしているんです。
岡田 筋量はかなりありますよ。ロープを登るときに、絞れた状態ではないのに背中にクリスマスツリーが現れますからね(笑)。
大野 今ではウエイトトレーニングをやらないと落ち着かないと言いますか、だらしない状態に陥るのが嫌なんです。2016年はオリンピックという特別な試合があったのでトレーニングを継続して行うことが難しかったのですが、基本的には毎年、同じような練習スケジュールを組んでいます。大きな大会が終わったあとは少し休息を取り、そこからウエイトトレーニングを密におこなって、ケガしない身体を作っていきます。そこで養ったものを、次の段階で柔道の動きにはめ込んでいきます。試合に向けてのアプローチ方法は自分のなかで決まっているんです。そのなかで一番最初に取り組むのがウエイトトレーニングでの体づくりです。それはケガの予防にもつながりますし、もちろん柔道にもつながります。
守田 大野選手はわざわざ天理から1人でJISSまで合宿にきて、午前と午後にトレーニングを行っているんです。
大野 合宿でトレーニングのベースを作り、いただいたメニューを天理に帰ってからも実施していきます。試合に向けての時期によってアプローチは変えますが、僕の場合は普段は週4回の頻度でトレーニングをやっています。
守田 大野選手の強みは年間のサイクルが自分のなかで確立されていることです。そのサイクルが完成されているからこそ、徹底的に身体づくりをする時期、柔道の練習に集中する時期など、その時期に行うべきことに高い意識を持って集中して取り組めるのだと思います。トレーニングのプログラムに関しては、ある程度はこちらでコントロールしています。
――もともと「ウエイトトレーニングは重要」という認識を持たれていたのでしょうか。
岡田 大野選手は私たちが関わるようになる前からウエイトトレーニングをやっていました。
大野 全日本のメンバーになる以前も、大学でウエイトリフターの菊妻(康司)さんの指導を受けていたんです。遊びのような感覚でウエイトリフティングをやったり、フリーウエイトでのスクワットやベンチプレスをやったりしていました。これは僕個人の見解ですが、外国人選手に力で抑え込まれて負けてしまうことがよくあったのでそういった部分でも勝ってやろうという気持ちが芽生えたんです。以前の柔道界にはウエイトトレーニングなど新しいものを避けていた風潮はあったのかもしれません。
――ウエイトトレーニングを導入した当初、柔道界内部からの風当たりは?
大野 とくには感じなかったです。僕は普通にウエイトトレーニングに取り組んでいました。自分で言うのも変ですが、僕は自ら進んで練習するタイプなので(苦笑)。僕の場合は重量級の選手と練習することが多くて、力もある程度は強かったんです。すでに体的な土台というものがあって、そこにウエイトトレーニングがプラスされて、外国人選手に負けない身体になったんだと思います。
――トレーニングの楽しさはやはり数値の向上ですか?
大野 マックス測定はそんなに頻繁に行うものではないのですが、例えば5回しかできなかった懸垂が10回できるようになった、10㎏のパワーバッグを使っていたのが20㎏のパワーバッグでもセットが組めるようになった、とか。それらは実感しやすい成長といえます。その日のコンディションなどに左右されることもありますが、ちょっとした成長を感じ取ることができて、見た目も変化してくる。体組成を測定すると、その変化が数字という形になって表れます。
――男子柔道はリオリンピックですばらしい成績をおさめました。
日本人でも外国人選手に力負けしないフィジカルを作ることは可能であることが証明されたのではないでしょうか。
大野 自分の場合は、正攻法でガッツリ組み合って、力と力の勝負といいますか、逃げ場のないところで戦っています。相手との力関係が如実に現れるスタイルなんです。日本柔道の崩しとかさばきとかを使って対応していくスタイルも決して間違いではありません。でも、それだけでは対応しきれない部分を僕は感じていたので、真っ向勝負をしても勝てるようなフィジカルを作る必要がありました。5分間の試合のなかで、逃げ場のない、真っ向勝負を強いられる場面は必ず出てくるんです。そこで引いても活路は見いだせないだろうとは思っていました。そういった局面で勝負できる、力強さがほしかったんです。
岡田 大野選手の階級を担当しているコーチが金丸雄介先生という方で、科学的トレーニングが好きな人なんです。探求心が高く、私たちともよくトレーニングについての話をします。私たちに丸投げするのではなく、金丸先生から提案をいただくこともあります。環境はいいと思います。
大野 実際、トレーニングを重ねてきて、ここ数年で外国人選手と組み合うことが苦ではなくなりました。もともと外国人選手と同等になりたいという発想はなかったんです。同等ではなく、力でも抑え込んで相手に恐怖心を与えたいと思っていました。試合で完全に上下関係を作って、「自分のほうが強いんだ」ということを思い知らせたかったです。
――特に重視した部位はどこでしょうか。
守田 これは大野選手に限ったことではないのですか、ロンドンオリンピックからの4年間のトレーニングでは、とにかく「引く」に重きを置きました。
――部位としては背中になるのでしょうか。
守田 背中だけではなく、肩や腕も重要です。「ベンチプレスは何㎏挙げられるの?」と聞かれる選手も多いでしょう。ですが、海外の選手と比較した場合、例えばボディビルでも「海外の選手は背中が違う」「僧帽筋が発達している」という会話をされることがあると思うのですが、それとまったく同じで、柔道でも日本人選手と外国人選手とでは背中の厚みや肩や腕の発達に違いが感じられるんです。逆に、外国人選手と比較して胸の筋肉が劣っているという事例はあまりないんです。また柔道の競技特性を考えても、押す動作よりも引く動作のほうが重要だと考えられます。大野選手は引く力も強いし、下肢も強い。上体だけが強くても、下肢が弱かったら力発揮はできません。引く力と比較すると押す力は弱いのですが、下肢が充実しているところが彼の強みです。
岡田 私の調査によると、弱いといっても、押す力は木澤大祐さんと同等のレベルにあるらしいです。普通に考えたら相当強いですよ。(笑)。引く力とのバランスで考えると弱いということです。
大野 ウエイトトレーニングをやっていなくても勝ってきた先人はいらっしゃいます。ですが、僕の性格上、やれることはすべてやった上で試合に臨みたいんです。ウエイトトレーニングを行ってマイナスに働くことは、そうないと思います。身体が固くなるとか、トレーニングで養った力を柔道で発揮できないという選手も多いと思いますが、そこでは自分自身の感覚や身体や力の使いようも大事になってきます。うまく言葉で表現するのが難しいのですが、ただたんに重りを挙げているだけではダメだと思います。トレーニングは、ごまかそうと思ったらごまかせるものです。だからこそ、1回1回をていねいに行うといいますか、しっかりと力を出していくことが重要だと思います。
――ストラップを極力使用しないところにボディビルダーとの違いを感じました。
岡田 フォームもボディビルやパワーリフティングのそれとは少し異なります。ダンベルプレスは押すときに肩甲骨を外転させて挙げます。肩甲骨を寄せたまま押すという動きは柔道の中ではまずありませんから。
大野 今は合宿で午前、午後とトレーニングを詰めてやっています。筋肉痛が残った状態で2週目に突入するという、最悪の状況になるのでいつもブーブー言いながらトレーニングしています(苦笑)。
守田 大野選手のように午前と午後のダブルスプリットでトレーニングする選手は柔道ではあまりいません。この4年間で選手たちのウエイトトレーニングに対する意識はかなり変わったと思います。なかでも大野選手はもっとも高い意識を持ってトレーニングを実践している選手の一人だと思います。
大野 僕はコーチと1対1でトレーニングすることに意味があると思っているんです。1対1でトレーニングをすると、逃げ場がありませんからね。すべてが自分に返ってきますし、妥協もできません。1人で集中したいときにこのような合宿を組んでトレーニングを淡々と行うというのが好きなんです。さぼりたいときや練習をしたくないときもあります。でも、「逃げ道をなくす」というのは大事だと思います。
――体重の変動は?
大野 身体づくりをしている時期には増えます。でも柔道の練習を始めると一気に落ちますね。1日のスケジュールはラン、ウエイト、柔道という流れになるんですが、最初はシンドいのですが、そこからしだいに身体が慣れていって、体重の変動も落ち着いていきます。
――食事も多めに摂るのですか。
大野 やはり身体を大きくしたいですからね。そこから柔道の練習や有酸素系のトレーニングを行って絞っていくというのが自分のなかでのサイクルです。もちろん、減量がある競技なので大きくなりすぎないようにコントロールしています。体組成を計るのが好きなので、頻繁にチェックしていますね。それをデータとして残していけば、後々役に立つとも思います。
――顕著に伸びた種目などはありますでしょうか。
大野 バランスよく、どの種目も伸びたと思います。ここからの4年間でさらに(使用重量の)数字を伸ばしてくのは難しいと思いますが、ぼくらはその数字を争っているわけではないので、遊び心を持ちながら、トレーニングを継続してきたいと思います。
――この種目をこのくらい挙げれば外国人選手を相手にしたときも力負けしない、といった指標のようなものはあるのですか。
守田 そういった指標を最初に設定しようと思ったのですが、海外の選手の数値が入手できないので、目安にできるものがないんです。ですので、実際の試合で力負けしたかどうか、選手本人に確認していました。客観的なデータが得られないため、選手の主観に頼らざるをえない部分はありました。日本人選手は、もともと高いスキルと戦術を持っています。海外の選手と比較して足りない部分はフィジカルでした。そのフィジカルを伸ばせば海外の選手と十分に勝負できるだろうと考えました。
岡田 大野選手は講道学舎という柔道の名門私塾の卒業生なんです。講道学舎では自分よりも上の階級の選手と当たることで体力をつけていくという練習も行います。そういった練習で養われたものもあると思います。彼は全日本代表選手の強化合宿で100㎏級の選手を投げるんですよ。そういう練習ではケガをするリスクもあるのですが、ここまで生き残り、勝ち上がってきたということは、かなり強い下地を持っているということなのかもしれません。
大野 それも、今回のような合宿や体づくりのトレーニングをやっていたからこそだと思います。ゼロの状態から柔道を始めたら、練習で軽い選手と当たってもケガをする確率は高いと思います。だからこそ、僕は体づくりの時期を大切にしているんです。
――トレーニングで養った筋力をパワーに変換して競技に生かすために留意している点は?
守田 当初は特異的なエクササイズや、高めた筋力を競技パフォーマンスに転換できるようなトレーニングの導入も検討したのですが、そこはあまり小難しくは考えず、高められた筋力やパワーを生かせるよう普段の練習のなかで意識することが大事だと思っています。大野選手はウエイトトレーニングも稽古も人一倍行っている選手で、(トレーニングと競技練習を)うまく融合させています。また、彼自身の柔道スタイルにウエイトトレーニングというものがマッチしているように思えます。
岡田 大野選手の筋量はものすごいものがあります。ボディビルで例えると、東京選手権レベルの筋量ですよ。リオオリンピックの予選ラウンドが終わったときに大野選手の体を見たのですが、デカいだけじゃなくしっかり絞れていて、しかも全身がパンプしていて血管バリバリ。その瞬間、社会人選手権を控えていた私は自信をなくしました(苦笑)。
――もともと筋肉がつきやすい体質なのですか?
大野 子どものころはガリガリでした。体重も軽かったです。中学のときは55㎏級でした。高校のときは今と同じ73㎏級に出場していたのですが、計量時の体重は67㎏しかなかったです。減量はせずに、ギリギリの体重で上の階級の試合に出ていました。大学2、3年生まで、減量はしなかったです。初めてやったベンチプレスも60㎏がやっと上がる感じでした。
岡田 鈴木雅選手と同タイプですね。ベイカー(茉秋)もそうなんです。彼ももともとは66㎏級で、そこから90㎏級に階級を上げてきましたから。
――ボディビル的な視点で、得意な筋肉はどの部位ですか?
大野 意識したことはないですが、肩はすごいってよく言われます。
岡田 三角筋の丸みはすばらしいです。僧帽筋の盛り上がりもすさまじいです。稽古に入る前に上半身裸になってリラックスしているときに僧帽筋があらわになるのですが、私を挑発しているとしか思えない体と振る舞いでした(笑)。ボディビルダー顔負けの筋量と密度がありますよ。
守田 僧帽筋の発達は相手を力で引き抜くという試合スタイルからくるものもあると思います。
岡田 ロープトレーニングを行うときに僧帽筋、三角筋をしっかり使えているので、ロープが力強くて大きな動きをするんです。
大野 ロープトレーニングは好きですね。ロープトレーニングをやって、クリーンをやって…、というサーキットトレーニングがあるのですが、最高のトレーニングですよ。
岡田 上半身の筋肉に目を奪われがちなんですが、彼は脚の筋肉もすごいんですよ。大腿部が太く、カーフも丸い。全身の筋肉がバランスよく発達しています。だから、弱点と言える部位はないと思います。首から骨盤までの筋肉も太いんです。体の軸を構成している筋肉群がでかいんですよ。顔の幅よりも首のほうが太いですからね。また、彼の肉体は食べたものに敏感に反応するんです。印象深い出来事としては、宮崎県の延岡で合宿を行ったときに、大野選手が前日に寿司とラーメンを食べたと言っていたことがあったんです。私は、その話を聞く前に彼の肉体がパンプしていることを見抜いていました。「昨日、(カーボを)入れたな」と(笑)。体重を計ってみると、やはり重たくなっていました。
大野 ありましたね、そういうことが(笑)。
岡田 炭水化物をたくさん食べると、それが体にも現れて、また自分自身で実感もできる。「そうやって体は炭水化物をためることができるんだよ」とアドバイスをすると、次の試合からは生かして、実践することができるんです。
――強くなることに対しての貪欲な姿勢を感じます。
岡田 これまでにたくさんのトレーニング、稽古を行ってきたので、追求すべきところがマニアックな部分しか残されていないのかもしれません。
――これまでに自分のなかにあるさまざまな伸びしろを探してきて、あとは何が残されているか。
岡田 そういうことなんでしょうね。ケガさえ負わなければ、東京オリンピックも大丈夫なのではないかと思っています。大野選手は完璧主義者なんです。すべてにおいて、やり込もうとしてしまう。これだけ強い筋肉を持っているので、その筋力と精神力に体が耐えられなくなる可能性もなくはないです。
大野 そこが問題です。リオオリンピック前も、練習をやりすぎてしまい、「まだ若いからいいか」と。これが2020年になると、今よりも年齢を重ねているので、回復するスピードも違ってきているとは思います。トレーニングとケアのバランスはうまく取っていく必要があると思っています。また筋量を増やしすぎて体重が重くなりすぎるのもよくない。これまでトレーニングしていた時間をケアに回す必要も出てくると思います。ロンドンからの4年間で、ある程度のベースはできたと思っています。ここからさらに守田さんに僕の弱点を探してもらい、細かい部分を鍛えていきます。
岡田 そうやって長期的なプランニングができているのは、すばらしいことです。競技を続けるにおいて「賢さ」は重要な要素です。
大野 ウエイトトレーニングに関して、ここまでマニアックな人たちに囲まれていたら、嫌でも体づくりの知識が頭に入ってきますよ(笑)。
岡田 興味がないとそういった知識を吸収しようとはしませんから。
大野 岡田先生とはリオで試合が終わった後も現地でいろいろ話しました。リオでは食べすぎて、内臓が疲れてしまっていたんです。決勝、準決勝のときは眠たくなっていました。たくさん食べたのに、力は出なかった。そういった部分も勉強しなければいけませんね。ただやみくもに食べるだけではダメなんだと思いました。
――柔道の稽古に重点を置く時期は、ウエイトトレーニングの頻度は減らすのですか。
大野 そんなに減らさないです。さすがに毎日トレーニングするのはやめますが、「引く」「押す」「脚」「クイックリフト」という分割で、週4日の頻度で行います。もちろん稽古を重点的に行う時期は、5種目やっていたところを3種目に減らすなどの柔軟な対応は行いますが、「しっかりと刺激を入れる」ことは忘れずにやっています。学生とは実力差があるので、あえて柔道の稽古の直前にウエイトトレーニングをやることもあります。オニギリやゼリーで少しだけ栄養補給して、体をあえて疲れさせた状態にして稽古に臨んで、ぶっ通しで柔道の練習をやることもありますね。
――ウエイトトレーニングでいう事前疲労法のようなかたちですね。
大野 疲れた状態で稽古に参加して、上の階級の学生と当たると、普段は使わないような筋肉を使うのでいい練習になります。同じ階級の選手とやるときとはまた違う柔道になるんです。
守田 ウエイトトレーニングですごく努力をした、だから柔道も強くなるんだと。そこを期待しすぎるのもよくないと思います。ウエイトトレーニングという手段が「目的」になってしまってはいけません。あくまで競技をする上での前段階といいますか、いい練習を行うための準備です。競技の練習はしっかりと行うべきです。これは柔道だけではなく、他の競技でも同じことが言えるはずです。ジャンプ力を向上させるために、ウエイトトレーニングやプライオメトリクスなどを行って、そこで養ったものをフィールドで生かしていくということを実施していくべきだと思います。そういった考えが大野選手には備わっています。
岡田 彼はフィジカルだけではなく人間性も素晴らしいんです。まだ若いのですが、トップアスリートとしての自覚を持って行動しています。畳を降りれば、「俺が、俺が」という部分がないんですよ。だからこそ多くの人たちのサポートが集まるんだと思います。
――金メダルを獲得したあとの「納得のいく勝ち方ではなかった」というコメントに、大野選手の意識の高さを感じました。
岡田「最低でも金メダル」という考えがあったからこそ出てくる言葉だと思います。
大野 もっとバシッと相手を投げていれば、ニュースでもっと映像を流せてもらえたのですが(笑)。2020年の東京オリンピックで、もうひと暴れしなきゃいけないですね。そのときは決勝でもバシッと投げて、アイアンマンの表紙を狙います(笑)。