9月19日、RIZINバンタム級JAPANグランプリ2回戦で金太郎を相手に、グラウンド勝負なしの打撃のみで完勝した井上直樹。DEEP JEWELSストロー級王者・魅津希は日本での弟の戦いぶりをどう見たのか。現在、ニューヨーク在住の魅津希をキャッチし、急遽オンライン対談が実現した。大晦日の重要な二戦(準決勝、決勝戦)を前に、姉から弟に送るメッセージ――。(Fight&Life Vol.87より)
取材・文_安村 発 撮影_中原義史
──今、そちらは何時ですか?
魅津希 今年1月にラスベガスに引っ越してましたが、9月にニューヨークに戻ってきて、今は朝9時になります(取材時は日本時間夜10時)。怪我で練習ができずにいましたが、やっとジムでミットを打てるぐらいまでにはなりました。MMAの練習自体、全然できていないですし、動けるようになっても試合感覚が戻るのがどれぐらいになるのか分からないので多分、復帰戦は来年ぐらいになるのかなと思っています。
──復帰戦を楽しみにしています。直樹選手とはよく電話します?
魅津希 直樹からは個人的に連絡が来ないので、マネージャーとかに直樹の状況を聞いて、順調にこういうスケジュールで進んでますということを聞く感じです(笑)。
──どうして連絡をしないんですか。
井上 どうしてなんでしょうね……。
魅津希 そんなに大したことはないから自分から言わなくてもいいという感覚なんでしょう。水垣(偉弥)さん、安田(けん)さんとかコーチの方には随時、状況を伝えていると思うのですが、伝えていない部分もあると思うのでそれを補うために私が聞いて「直樹はこういう状況なんですが、大丈夫ですかねぇ?」とコーチに直接聞くというサイクルができています(笑)。私はどちらかというと、補い役なんです(笑)。
井上 安田さんからこの前の金太郎戦や石渡伸太郎戦のこととか聞いてた?
魅津希 金太郎戦のことはあんまり聞いていないけど、(トレント・)ガーダム戦のこととか、その後石渡戦でケガをして、金太郎戦までにスパーでどのぐらいの動きをしているか、今はまだミットを打っているけど、試合までにどのぐらいの状態まで戻せるかは分からないから、軽くしか打てないですねとかを聞いたよ。だから私はあなたに「ミットを打つのはまだ早いから打たないでシャドーだけにしときなさい」と伝えたけど、あなたは実行してくれていない。「グラップリングのスパーもやると、たまに手を捻るからやめなさい」と言っても、直樹は「練習しなきゃいけないから」と言ってやっているんだよね。
井上 ……。
──昔からお姉さんのアドバイスを直樹選手は聞かなかったんですか?
魅津希 昔はあんまりアドバイスしていませんでしたね。以前に所属していた空手道白心会の山口定則会長はよく「自分で考えろ」と自分で考える力を付けさせようとしていましたが、山口会長自身が対策を練りに練りまくる方だったので、私が直樹に言うまでもなかったんです。その言われたことを私たち姉弟は試合で実行するだけでした。そういう過去があったので、私たちは確立されたものができていると思うのですが、それ以上のテクニックを補うために私たちはアメリカに行きました。
──山口会長のそういう分析力を見てきて、今、直樹選手に伝えている部分はあります?
魅津希 それはありますね。今私は日本にいないので、直樹にできることと言えば、対戦相手の映像をしっかり見て、相手がこう来るんじゃないかというのを想像してアドバイスするようにはなりました。
──それはいつからでしょう?
魅津希 直樹が昨年2月、RIZINに出始めるようになってからですね。RIZINの舞台だと、今後、対戦するであろうと思われる選手、対戦したら厄介な選手に関しては、あらかじめ早い段階から見るようにしています。
──金太郎戦はどう見られました?
魅津希 私もチームのコーチも、テイクダウンすればもっとイージーな展開になっていたと思ったのですが、彼自身は前回の石渡戦が1R決着で終わっていたことで、きっと試したい技があったんだなと思いました。右手をケガして右の攻撃を出せなかったにしても、その状況でも完封できるようにしたかったと思います。彼自身は「3Rフルに楽しめた」と言っていて、特に危ないシーンもそこまでなく、大晦日は2試合あるので、そのことを考えると、3Rやったのはいい経験材料になったんじゃないかなと思いました。
──終始スタンドのみの展開になりましたが、グラウンドに行かなかったのはなぜですか。
井上 グラウンドに行かなくても自分が勝っているという自信は全然あったので、リスクを負ってまでテイクダウンにいくこともないのかなと。試合前は2Rの中盤ぐらいまでは立ちで勝負してからテイクダウンに行くプランがあったのですが、全然立ちの勝負でいけるなと思ったんです。
──試合では終始、左のカーフキックを多用していました。
井上 凄く効いているのを感じました。関節蹴りも当てると下がっていたので嫌がっているんだなというのもスパー中に……あっ、試合中に感じましたし……(苦笑)。
魅津希 あーあのスパーリングみたいな試合だったから自分でもそう言っちゃうのね(笑)。
井上 いやいや、スパーリングでできないことは試合ではできないじゃない? 金太郎戦は精神的にも身体的にもスパーリングをするような感覚で力まずにできたので、普段のスパーリングでやっている関節蹴りをスムーズに出せました。
──言い間違いを上手いようにカバーできましたね(笑)。ちなみに関節蹴りをスパーでやるとかなり危険だと思うのですが、普通に当てるんですか?
井上 軽くちょんと当てる程度にして、試合でちゃんと入れるようにしています。スパーでやっていることが試合にもつながると思うのでよくやるようにしています。
──とはいえ、スパーでやっていることを試合で出すことができない選手もいます。試合でも使えるように意識していることはありますか?
井上 やはり反復することが大事だと思います。何度もやっていると、身体が自然と覚えていて出るようになります。ディフェンス面に関しても、頭で避けるのもスパーで身に付いたものでした。
──先ほど、魅津希選手が直樹選手の右手負傷のことに触れていましたが、いつどのような状況で負傷を?
井上 前回の石渡戦の時に多分やってしまい、試合後に右拳が腫れていたんです。それが良くなったり、悪くなったりの繰り返しでした。
──トーナメント途中の大事な一戦で右ストレートを打てないことに不安はありませんでした?
井上 金太郎戦では特に不安は感じませんでした。出そうと思えば出せますし、次に向けて温存しとこうという感じでした。
魅津希 私はずっと右手の攻撃を出さないでほしかったのですが、何発出すんだろうというのをずっと気にしていました。1R中盤に見せた最初の右ストレートはわざと空振りしていましたが、向こうにとっては脅威だったかと思います。途中から直樹はスイッチが入ったのか、本気で当てようとしていたものが本当に当たっていて・もうやめて……打つならテイクダウン行ってよ・と心の中で訴えるように見ていました。この前の試合は本気で右ストレートを出すタイミングではなく、大晦日にとっておいてもらいたかったのでテイクダウンしてイージーに倒してほしかったんですけど、彼はこっちの想いなんて分からず楽しんでいたようで(笑)。でも結果的には、そんなに出していないので良かったのかなと思います。