森 そういった動向もあり、最近、一般のメディアでも鍛えた体のかっこよさがクローズアップされるようになってきたと思います。ところで、女性がトレーニングをする中で、筋肉に効いてる感覚を掴めていない方がすごく多くて、この〝効く〟という感覚を上手く説明できればいいなと思うんですけど、これについてはいかがでしょうか。
石井 筋肉の中が熱く重くなったとかいろいろ言おうとするんですけど、やはり「効いた」っていうのが一番適切な表現だと思います(笑)。そしてこれはしつこくやって、実際に一度〝効いた〟っていうのを体験するしかないんじゃないかと思います。
森 では重い重量が扱えなければ、軽くてもいいから回数で攻めて、効いた感じを体験すればいいのでしょうか。
石井 そうですね。実は最近の研究で筋肉が育っていくのに、80%RMを持たなくてはいけないというのは正確ではないことが分かってきました。仮に30%のものでも筋肉は太くなります。今までの研究というのは30RMは50回とかできてしまい、次の日やったら52回できた、また次の日やったら55 回できました、そういう風にトレーニングを重ねていくと30%でできる回数が増えていく。ところが筋肉は太くならないし筋力もつかないで回数だけが増えていく。ですから、軽い負荷で何回やっても筋持久力がつくだけだと考えられていました。なので80%を上げるのを8回、ちょっと重かったら75%にして10回でもいいです、70%にして15回でもいいです、でも65%より下げないようにしないようにしましょうというのが教科書レベルの話でした。
森 そうですね…。
石井 これまで、なぜ30%まで落としたら筋肉が太くならないという結果になっていたかというと、要するに回数が足りない、つまりぬるい訳です(笑)。僕らがやった研究は30%で50回やってもう上がらなくなったら、3分間休ませてもう1セットやらせるんです。2回目は25回しかできない、そうしたら3分間休んでもう1セットやらせる。すると3回目は15回ぐらいしかできないけど、さらに3分間休んでもう1セットやらせる、という風に4セットやらせます。この4セットやらせるとすごく太くなるんです。実験ではベンチプレスを、75%10レップを3セットやるグループと、もう片方は30%でオールアウトまで4セットやるグループを比較しました。結果的には両者ともほぼ同じ結果が得られたんです。だから今までの「30%では太くならない」というのはある種ウソで、それは追い込みが足りなかっただけなんです。腹筋なんかは80%RMの原則が成り立ちませんよ、もっと回数をやりましょうと言われていて、腹筋に関してはたくさんやらないと効果が出ないと経験的に分かっているので、みんなそれなりに追い込んでやります。ですから負荷は軽くても追い込んでトレーニングをするので、実は筋肉はちゃんと太くなっている訳です。なので軽い負荷でも回数をやることでちゃんと筋肉がつくというのは、腹筋以外の筋肉も同様であることが、証明できたんですね。
森 でもこれは辛いですね(苦笑)。
石井 辛いです(笑)。両グループにこの両方を体験してもらった後、これからやるとしてどっちをやるかと聞くと、100%ヘビーを選びます。それはそうなんです、30%RMに対して、75%、80%RMっていうのはどういうトレーニングかというと、重いからキツいトレーニングなのではなく、一番楽に筋肉がつく、一番楽に効果があるトレーニングなんです。
▶続きは明日1月10日(日)アップ予定の<“筋肉博士”石井直方先生に聞く新理論!筋肉をつけるためにトレーニングで一番重要なこととは?(後編)>でお楽しみください。
石井 直方(いしい なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学大学院教授、理学博士。
全日本ボディビル選手権優勝(81・83年)、アジアボディビル選手権優勝(82年)ほか、ボディビル競技での輝かしい実績を誇る。トレーニングをテーマに次々にベストセラーを世に送り出す“筋肉博士”。
森 弘子(もり ひろこ)
ソライナ株式会社にて、プロテインや健康食品の企画・開発を行う。ボディフィットネスでは東京大会4連覇、2016年には8年ぶりに大会に復帰し、関東オープン・フィットネスビキニ163cm超級で優勝を飾る。