自分の体形・骨格に合ったトレーニングを積まなければ、理想とする体には辿り着けないもの。まずは自分の身体的特徴を把握し、その上でしっかり“効く”トレーニングをすることが必要です。今回は従来のトレーニングに対する考えが変わる新理論を石井先生からお話し頂きました。
取材・文_長谷川亮 撮影_t.SAKUMA
▶まずは『“筋肉博士”石井直方先生に聞くトレーニング新理論!筋肉をつけるために一番重要なこととは?(前編)』からご覧ください。
森 では効率がいいというか。
石井 そうですね。回数で追い込んでいくと筋肉が出す力が落ちていきます。でも実は筋肉はあまり疲れていないんです。筋力が落ちてきてもう上がらないっていう時、電気刺激をボンってやると上がります。これは何が起きているのかというと、回数が増えてくると最初に疲れるのは頭で、頭が「もう嫌だ」ってブレーキを掛ける。本人がもう1回頑張るぞっていくら頭で思っても指令が行かないんです。ある種の体を守る仕組みとして、筋肉が疲れる前に止めようっていうブレーキが頭で掛かるんです。なので筋肉があんまり疲れ切ってないうちに頭でストップが掛かってしまう。だから1セットではダメなんです。50回、60回で潰れても筋肉はこれから太くなるっていう状態まで達していない。だから持久力しか増えない。なので50回やって疲れても、3分休めば頭が回復してくる、そのタイミングでさらに筋肉を使えば、さらに疲れて、またブレーキが掛かる。そこでまた休むと中枢が回復する、という風にこれを繰り返して筋肉を全部使い切ったところまで、4セッぐらいやれば追い込めます。
森 女の人って重さに対する障壁が結構あって、重いものを持つのは、気持ちの上で「無理」って思ってしまうから、このやり方の方が追い込める方はいらっしゃると思います。
石井 ただ辛いんです(苦笑)。実際は筋肉がパンパンに張って、「効いた」っていう実感が伴わないと、筋肉の反応は起きないです。体が何も感じなくて変化することはないと考えていいし、これは生理学的な原則で、体が感じなければ何も起こりません。ですから筋肉が効いたっていう感覚、どういうのが効いているかというのを体感しないといけません。でも先ほどの4セットをやれば、間違いなく筋肉の芯まで効いた感覚というのを体験できると思います。
森 1度それを経験しておけば、他の方法でやっても、「あの領域に持って行かなければいけない」という経験知が働きますね。
石井 30回ぐらいしかできない負荷でも基本的には同じなんですよね。65%より軽い負荷でやる場合、50%の場合はひょっとしたら2セットでいいかもしれません。そういう風に最終的にムラなく筋肉が疲れ果てている状況まで追い込むこと。筋肉を太くするために、速筋繊維を使うところまで軽い負荷で追い込むっていうのは結構大変です。つまり最後の最後、どうしようもなくキツい時に速筋繊維を使う訳で、頭が限界という指令を出した後こそ重要なんです。
森 トレーナーに組んでもらったメニューと回数をこなしたところで終わりにしてしまう方もいらっしゃいますが、ただ回数を決めてトレーニングをするのではなく、回数限定では、成果は出ないということですね。
石井 そうです。逆に回数が行かなかった場合は筋肉がそういう状態であると考えればいいのであって、前より1回多くやらなきゃいけないかというとそういう訳ではありません。最後の頑張りの部分がトレーニングなので、涼しい顔して10回1セットっていうのじゃ全然ダメで、最後の5回ほどを顔をしかめて頑張るぐらいの状態になれば、それはもう負荷にこだわらず効果があると考えていいと思います。
森 でもそれを経験していない方もすごく多いと思います。
石井 インストラクターとしては教科書通りに80%を8回やりましょう、70%で15回とか指導しますが、結局そうなってしまうと重さと回数だけになってしまって、だんだん楽にトレーニングが進むようになって効果が上がったのかな?って思ってしまう。ところが楽になってくるのに従いトレーニングの質が落ちてくる訳です…。「そんなに頑張らなくても筋肉がつきますよ」っていうのが謳い文句としてはいいんですけど、それはたくさんの人にやってもらいたいっていうある種の詭弁で、本当は最後のきつい頑張りが一番重要なところなんです。
森 やはりその頑張る部分がないと体は変わらないし、楽に筋肉がつくことはないということですね。
石井 直方(いしい なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学大学院教授、理学博士。
全日本ボディビル選手権優勝(81・83年)、アジアボディビル選手権優勝(82年)ほか、ボディビル競技での輝かしい実績を誇る。トレーニングをテーマに次々にベストセラーを世に送り出す“筋肉博士”。
森 弘子(もり ひろこ)
ソライナ株式会社にて、プロテインや健康食品の企画・開発を行う。ボディフィットネスでは東京大会4連覇、2016年には8年ぶりに大会に復帰し、関東オープン・フィットネスビキニ163cm超級で優勝を飾る。