人間の体を作る要素
森 人間の体を作る要素として、まだ分かっていないものもあるということでしょうか。
石井 多分ありますし、何がどれぐらい必要かということも実はまだ分かっていないんです。例えば僕らは実験で筋肉の細胞を培養させてガラス器の中で飼うんですが、食塩水の中にありとあらゆる必要なもの、グルコースやビタミンなんかも入れて、これだけあればちゃんと細胞が元気に生きて増えていくだろうと想像されるものを全部揃えて飼うんですが、それでもあまりうまくいかない。何を入れればいいかというと、自然の血清を入れるのが一番いいんです。血清を模したものを作って、組成的に本当に模していると思っても、本来の血清と100%合致しない、そこに含まれる微量な栄養素、微量なペプチドとかそういうものがないとちゃんと育たないんです。
ですから成分を分析して、後で加えただけでは基本的にダメで、人間の体もおそらく同じです。自然なものを摂っていれば問題ないんです。例えば生きている物、生き物を食べればその体を作っているものは全部摂りこむことができるわけです。植物を食べれば、その植物が地面から吸収した全ての元素を栄養素として利用することができる。そういうことをすることで人間の体に必要なものが供給されているので、その中にはひょっとすると分かっていないものがあるかもしれない。そういうものって世の中にはまだまだいっぱいあるんです。
森 単体で摂っても、全然自然界のものには及ばないと。まるで人の体の中にそのまま地球が入っているというようなお話です。私たち一人ひとりは、小さな地球、ミクロコスモスなのですね。そう考えるとやはり自然のものの恵みをきちんと食べていくというのが一番ですね。
石井 そうですね、まずはそこが中心になると思います。
森 ところで先生が御多忙の中、ボディビルのステージに復帰された時、練習はどのようにされていたのか、とても興味深いのですが……。
石井 トレーニング時間の確保が難しく、週3日、1回につき1時間半しか取れませんでした。
森 選手としては、とても短いですね。
石井 成績を出すには不十分です。しかし、それまでのノウハウを生かして工夫し、やり遂げました。
森 頻度や時間だけでなく、トレーニングのクオリティ、密度の大切さをあらためて思い知らされました。「忙しい」は言い訳になりませんね。
いしい・なおかた
1955年、東京都出身。東京大学大学院教授、理学博士。
全日本ボディビル選手権優勝(81・83年)、アジアボディビル選手権優勝(82年)ほか、ボディビル競技での輝かしい実績を誇る。トレーニングをテーマに次々にベストセラーを世に送り出す“筋肉博士”。
もり・ひろこ
ソライナ株式会社にて、プロテインや健康食品の企画・開発を行う。
ボディフィットネスでは東京大会4連覇、2016年には8年ぶりに大会に復帰し、関東オープン・フィットネスビキニ163cm超級で優勝を飾る。
取材・文_長谷川亮
撮影_t.SAKUMA
「Woman’sSHAPE Vol.08」より