質の高い呼吸のポイントは、“フレームのキャパ”を広げること
シエカ 「フレームをゆるめる」とは、胸郭をゆるめたり動かしやすくしたりすることですよね。胸郭と呼吸の関係について、改めて教えていただけますか。
菅原 胸郭はご存じのとおり、おもに肋骨で構成されていて、その肋骨は前側を胸骨、背中側は胸椎とアタッチしている。だから胸郭が固まってしまうと、上半身全体の動きも阻害するし、呼吸のキャパも小さくなってしまう。だからこそ、胸郭の柔軟性ってすごく大事なんです。
シエカ 胸郭が固まる原因は、やはり長時間のPCやスマホ使用による姿勢固定が大きいですよね。
菅原 だって今の時代、10時間ぶっ続けでPCやスマホをやっている人もザラですからね。胸郭が広がらない中で無理に深く呼吸しようとすると、腰椎まで動員するので「呼吸するだけで腰が痛い」となる。
シエカ 肩こりもそうですよね。胸郭が下を向くと肩甲骨は逆に上を向いて“肩こりポジション”に入ってしまう。でも、そもそもピラティスが胸郭をすごく動かすものだということを知らない人も多いかもしれません。美容とかダイエットの観点だと「お腹を締める」という印象が強いので。
菅原 ああ、背骨とかコアというイメージのほうが大きいかもしれないですね。
シエカ 「胸式呼吸でお腹を薄くするのがピラティス」と思っている人が多いでしょうし、実は私もそうでした。お腹を締めてカッコよくするのがピラティスだと。でも、やってみると以前よりお腹の意識は弱まって、たくさん肺を動かしたいというイメージに変わってきています。
菅原 肺を動員して吐き切ると腹筋群が全部使われる。いわゆるコアのトレーニングですが、シエカさんが言っていたのは、そればかりがフォーカスされて「ピラティス=コアトレ」みたいになっているということですよね。でも、本来は胸郭をしっかり小さくして腹筋群を使って吐き切ることがすごく大事で、吸うときは全てが広がってくるから自然に呼吸が入るという、それだけですよね。
シエカ 「ヨガは腹式呼吸でピラティスは胸式呼吸」とも言われますが、実際は違いますよね。
菅原 そう、大事なのは横隔膜が下がって上がることで、そのときお腹を膨らませれば腹式呼吸、胸郭を膨らませれば胸式呼吸になるというだけ。重要なのはどちらも上手にコントロールできることだから、胸郭を動かすのが苦手な人は肋骨まわりに、腹式呼吸が苦手だったら腹まわりにアプローチして、マッサージやエクササイズで柔軟性を高めればいい。
シエカ 私はお腹が硬くなるタイプで、サボると呼吸もしづらくなります。自分に足りてないところを、まず自覚することは大切ですよね。
菅原 そう、そこなんですよ。「私の肋骨の硬さって普通ですか」と聞く人がいるけど、それはバレリーナと比べたら硬いです(笑)。大事なのは日ごろから自分の体を触って、自分の中のエビデンスを蓄積していくことですよね。
シエカ そうすれば「今日は硬いな、柔らかいな」と分かってくるし、自分が生きやすい硬さ、呼吸というのも分かってくると思います。
菅原 何しろ僕たちは1日平均2万回も呼吸しているから、1回の呼吸の質を上げたら基礎代謝や治癒能力…とにかくいろいろいいことが体に起きてくる。でも、呼吸の質を高めるには、まず「現状把握」をしないと。
シエカ 自分を知る…まさにピラティスのテーマそのものですね。
次回は、呼吸の質を高めるための「現状把握」と「呼吸がしやすくなるレッスン」をお届けします!
取材・文 藤村幸代
撮影 中原義史
Yoga&Fitness vol.05 掲載
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