雑誌、『Woman'sSHAPE(ウーマンズシェイプ)』でお馴染みの石井先生と森弘子さんの対談。創刊とともに始まった対談も、節目となる20回目を迎えました。この10年で女性のトレーニングを巡る意識と環境は大きく変化しました。第1回の対談とこの10年を振り返りつつ、“女性らしさは筋肉が作る”という原点に立ち返り石井先生にお話をお伺いしていきます。
今回は、「成長ホルモンが脂肪を減らしたり、がん患者の余命を伸ばす役割を持つ可能性」など、10年の研究で分かったことや、“痩せ信仰”について解説していきます。
成長ホルモンの持つ働き
森
(10年前のウーマンズシェイプの対談の)第1回ではアンチエイジングにホルモン注射で外観を若くする治療がアメリカで行われているというお話も伺いました。そのときに先生のご研究の104歳の被験者の方が、レジスタンストレーニングをすることで成長ホルモンの分泌が確認できたというお話を伺いびっくりしたのですが、研究のその後の展開はどうなったのでしょうか。
石井
成長ホルモンに関しては、残念ながら筋肉を作るという働きに関しては当初期待されているほど影響が強くないということが分かってきました。しかし、成長ホルモンは脂肪を減らす働きについては非常に強いですね。ただ筋肉に対するホルモンの働きの重要性という意味では、がんになったときに急激に起こる筋委縮を止める役割が挙げられます。がんになると筋肉がものすごい勢いで減るのですが、そのときホルモンを与えたり、筋肉が太くなるような薬物を与え筋肉が細くなるのを防ぐと、たとえがんが切除できなくて残っていても、余命がすごく伸びるんです。がん患者で切除や抗がん剤の効果が期待ができない状況になると、これまでは緩和ケアで痛みだけ除いてという治療に切り替わっていたわけですが、積極的に筋肉を増強することで、余命を引き延ばすことが期待できるかもしれません。
森
筋トレを通じて、がんと共存するということが可能になるかもしれないと。
石井
はい。そういう筋肉の重要性が医療の面でも着目されていて、臨床試験ではおそらくいろんな試みが行われている段階だと思います。また、加齢によるサルコペニアで筋肉が減ってしまった人でも、筋肉量が向上する治療を行うことで、また元気になったりということがあります。たとえ末期のがん患者でも筋肉を強化することでがんと共存して寿命を延ばす、そんなことも今可能性が出てきていること。実際に筋トレができればいいんですが、それが難しいので、筋肉を増やす物質や薬物を投与するという方法になりますが。
森
それこそスロートレーニングが効果的なのではないですか?
石井
がんになると病状次第では、できるトレーニングは限られますが、スロートレーニングだったらできるかもしれないですね(笑)。将来的には可能と考えています。
森
動くことで気持ちがポジティブになったり、そういうメンタル面での効果も病気の方にとってはプラスの要素が大きいと思います。
石井
そうですね。ただやはりそこは強いモチベーションが必要なので、「筋トレをすればあと3年ぐらい余命が延びます」とか言うことができれば強い動機付けにもなると思います。そこがちゃんと言えるように、研究での裏付けが可能になればいいなと思います。