月経周期と筋力の発達の関係について
森 こうしてお話を伺うと、ホルモンと体の関係って、やっぱり本当に興味深いですね。「ホルモンバランスとトレーニング」というテーマで言えば、月経周期とパフォーマンス発揮の関係についてはどうでしょう。
石井 最近では、日本体育大学や日本女子体育大学のグループなどで、月経周期のどのフェーズでトレーニングをすると筋肉や筋力の発達にプラスがあるかを研究していて、以前より成果が出ていると思います。
森 よく排卵期付近からが適していると言われていますね。
石井 ええ、排卵期の頃に一番筋力が上がるというのは多くの研究結果として出ていますので、どうやら確かなようです。もう少し詳しく調べると、血液中の女性ホルモンの濃度がもっとも高い時に、筋力が一番発揮されるようですね。
森 排卵期は女性ホルモンのエストロゲンがピークになっていて、逆にプロゲステロンが低い状態ですが、そのタイミングがいいということですね。
「ハードな運動をし過ぎると女性ホルモンのバランスを乱す」?
森 月経周期で言えば、ネットの情報の中に「ハードな運動をし過ぎると女性ホルモンのバランスを乱す」という意見もよく出てきます。
石井 それに関するはっきりとした研究成果はないと思います。女性アスリートの中にはハードな練習で月経不順になり、それが長期間続くことで骨粗鬆症になったりする人もいます。ですがこの場合、実際にはすごくハードな運動にプラスして、厳しい食事制限をすることで、即月経不順につながるという状況証拠がある。つまり、過度なストレスが中枢に働くことによって、本来なら正常な月経周期を調整するはずのホルモンが、脳下垂体から分泌されなくなってしまうわけです。
森 激しすぎるトレーニングや厳しすぎる食事制限が悪いストレスとなり、初めて月経不順が起きてくるわけですね。それがあまりに簡単に解釈された結果、「運動すると月経不順になる」とか「運動すると男性化する」という短絡的な情報に翻訳されやすくなってしまうのですね。
石井 基本的に、トレーニングをすると脳下垂体からのいろいろなホルモンの分泌がさかんになります。例えば「FSH」とか「濾胞(ろほう)刺激ホルモン」といわれるホルモンが出ると、男性の場合は男性ホルモンのテストステロンの分泌をさかんにしますが、女性の場合は逆に、女性ホルモンのエストロゲンの分泌を促進するような働きになります。
森 ということは、より女性らしい美しさを磨くためにも、ますますトレーニングしましょうということになりますね(笑)。
石井 そうですね。ただ、先ほども言ったように、無理なトレーニングやダイエットは悪いストレスになります。適切で周期的なトレーニングをやっていると、ホルモンの周期性に関してはプラスの働きがあると考えていいと思います。
妊娠をすると筋力が上がる?
森 ホルモンのお話をもう少し。卵巣から分泌される2つの女性ホルモン、エストロゲンとプロゲステロンですが、エストロゲンが筋肉の合成にプラスに働く要素が考えられるとして、もうひとつのプロゲステロンはどうでしょうか? プロゲステロンは妊娠を維持するためのホルモンで、これに関してトレーニングとの関わりを示す研究などはありますか?
石井 ほとんどないと思います。これは昔の研究になりますが、女性アスリートの筋力を長年計測する中で、「妊娠をすると筋力が非常に上がる」という報告があるんです。プロゲステロンが直接関係しているかは不明ですが、女性の体内では妊娠を維持して子供を守るために筋力が上がり、全身持久力や酸素摂取能力も上がる、つまり〝体力がつく〟という反応が起きるんです。そこに、ある程度プロゲステロンが関係している可能性はあるかもしれません。
森 妊娠・出産は女性の体にとってダメージも大きいですが、俗に母は強しと言うように、『産む』という一大事を控えて、女性は文字通り強くなるんですね! 出産後に活躍するアスリートもいらっしゃいます。産むことによって、自分にストップをかけない、変化した体とじっくり付き合う、そんなメンタリティや、周囲の理解も大切ではありますが。妊娠中に筋力がアップするという点では、私も自覚もしました。向上するというわけではなかったかもしれませんが、筋力のダウンはあまり感じませんでした。
石井 そういえば以前この連載でも、森さんの経験談を含め「妊娠期間中も無理のない範囲でトレーニングすることをお勧めします」といったお話をさせていただきましたね。
森 赤ちゃんが元気であることが前提ですが、私の場合はトレーニングが十分できていたので、体感としても、またママさんアスリートの活躍をみても、「産むこと」をマイナスに考える必要はないのかなと思います。