筋トレをはじめて最初に考えることはどの種目をやるか、ではないだろうか。日本屈指のボディビルダーであり、ゴールドジムのトレーナーでもある鈴木雅・加藤直之両選手にメニューの組み方の考え方から実際のメニューまで考案いただいた。気になる分割法のこと、トレーニングメニューは固定したほうがいいのか、トレーニングノートは必要かなど、筋トレを始めてすぐに気になることが解決できるかもしれない。
取材・文:飯塚さき 撮影:中原義史、北岡一浩
加藤 初心者の方のために、どうやってトレーニングメニューを考えていきましょうか。
鈴木 僕は、組み合わせがいいと思います。フリーウエイトはフォームが安定しないと難しいので、いろいろやりすぎないこと。あとは、ちゃんと筋肉を追い込める種目を選ぶこと。例えば、胸は上部・中部・下部に分かれますが、ベンチプレスで追い込めない部分をチェストプレスで補うなど、種目をしっかり限定して、かつ単純な種目でフリーウエイトをミックスしながらやっていくのがひとつの提案です。また、大雑把に「背中の日」というと、ラットプルダウンだけ、またはロウイングだけというケースが多いんですが、広背筋・僧帽筋など、引き方によって鍛えられる部分が違ってきます。そこで、上から引く、前から引くといった動作の違いを理解して組み合わせることが大事です。脚も同じ。レッグプレスだけだとハムストリングがなかなか鍛えられないので、レッグカールを入れつつスクワットと組み合わせる。オーソドックスに、コントロールしやすい種目をいくつか組み合わせて、刺激できない部位を減らしていきます。
加藤 そしたら、まずは2分割して考えましょうか。
鈴木 基本的には、股関節と肩甲骨を大きく動かしていくことが大事なので、BIG3の中の、ベンチプレスとスクワットを基準にしてみましょう。ざっくりいうと、上半身の日と下半身の日みたいなイメージです。スクワットできちんと股関節の動きも出せるので、デッドリフトは思い切ってなしにします。
加藤 BIG 3は、全身を大きく動かすので、どの種目よりも発汗量が多いんです。ベンチプレスもスクワットも、体の基礎となる部分がフル稼働するのと、動作がシンプルなので、いいと思います。特に、ベンチは男の憧れですよね。あれっ? 鈴木さんはもしかして…。
鈴木 僕は…あんまりベンチ好きじゃないです…。
加藤 やっぱり(笑)。でも、ベンチはわかりやすいところがいいんですよ。「ベンチ○○㎏挙げられるよ」って。
鈴木 女性は、できなかった動作ができるようになることに喜びを感じますが、男性は特に、重さへのロマンがあるんですよね。アメリカの税関でも聞かれますよ、「お前ベンチ何㎏挙げるんだ⁉」って(笑)。
加藤 でも、それくらいメジャーなんですよ! まあでも、トレーニングの場合はどれも、回数はやっぱり10回×3セットが基準でしょうかね。
鈴木 そうですね。タンパク質同化ホルモンが、1セットよりも2セット、2セットよりも3セットと上がっていくんですが、3セット目以降からは徐々に伸びが減るので、3セットが基本といわれています。回数に関しては、動作する秒数にもよりますが、20~60秒の運動が適切といわれているなかで、例えば1回を4秒で動作すると、10回で40秒なのでちょうどいい量になります。
加藤 例えば、ベンチプレスをする「胸の日」を考えましょうか。組み合わせるメニューは、ベンチプレスで鍛えられない胸の上部を鍛える「インクラインマシンプレス」なんかはいいかもしれません。
鈴木 いいですね。ちなみに、一度組んだメニューは、あまり変えないほうがいいと思っているんですが、加藤さんは新しい種目を覚えるのにどれくらいの時間がかかりますか?
加藤 それこそ最近、新しい種目を増やしていないのでなんとも言えませんが、かなりかかりますね。1ヶ月くらい。
鈴木 そう考えると、メニューを増やすのには段階を経ていく必要があるので、そこまでしょっちゅうメニューを変えたり増やしたりするのはお勧めしません。
加藤 一度組んだらじっくりやりこんだほうがいいですね。
鈴木 また、メニューが進み追加したい場合に組み合わせるものは、種目によって負荷が初動・中動・終動とありますが、ここは単純な種目が良いと思います。あとは、2分割にしても、ここに「腕」「肩」なんかも加えていかなければいけません。そのときに、これらを胸の次の日に入れるとなかなか上がりづらい、または回復に差し支えがあるので、胸の日と一緒に入れるといいかも。最初はプレスダウンやプッシュダウンといった単純な種目がいいと思います。あと、要になるのは「背中」。これをどこに入れるかが問題ですね。下半身を強化したい人は、下半身の日に入れてもいいでしょう。ラットプルダウンだけだと肩甲骨が寄りづらいので、ロウイングを追加して、刺激の種類を変えます。もし足りなければ、ワンハンドロウイングみたいに、簡単に背中に効かせられるものを加えてもいいかもしれません。加藤 背中で付属的に使っているのが二頭筋なので、単純にアームカールとかも加えますか。
鈴木 いいと思います。肩前部は胸で、肩後方は背中で使っているので、加えるなら横を鍛えられるものがいいですね。上半身には、サイドレイズを加えましょう。さらに、肩前中部を鍛えるものとして、ショルダープレスも加えます。
加藤 脚は、スクワットだけでは足りない部分もありますね。レッグカールとレッグエクステンションを入れましょう。
鈴木 そうですね。大腿四頭筋の反応も良くなると思います。こんな感じで、どうでしょう?
加藤 いいんじゃないでしょうか! 全部入っていますね。鈴木 まずはこうして、単純な種目を繰り返して極めることです。いろいろ手を出さずに、限定した種目の動きを覚えてそれを伸ばしていくことが、一番大事かなと思います。
加藤 自分もそんなに種目は変えません。むしろ、ずっとやっていくと新たな発見もあります。鈴木 挙げられるようになってきたら重量を増やしていけばいいことですし、回数に関しては、何回挙げるって決めないほうがいい気がします。
加藤 決めちゃうと、追い込めていなくてもそれで終わってしまうので、「8~12回挙げよう」くらいでいいと思います。いけるところまでいくこと。
鈴木 今までの重さでは12回できてしまうなと思ったとして、次に重さを上げて8回できたらそれくらいがちょうどいいと思います。あとポイントとしては、トレーナーに話を聞くこともひとつです。自己流だと限界もあるので、近くにいるトレーナーに声をかけて、フォームを見てもらってアドバイスもらうのは効果的です。
加藤 あと、トレーニングメモをつけるのも大事ですよね。自分の場合は、トレーニングしながらではなくて、全て終わってからつけています。その日にやったことを書いておくだけで、後から見返したときに「この日は今日と同じようなコンディションだったけど、これくらいできていたんだなあ」などと、何をどれくらいやるかの参考になります。
鈴木 トレーナーに言われたアドバイスやフォームのポイントなんかも、いいなと思ったことはメモしておくといいでしょう。追い込んだ直後に書いた文字は、ミミズみたいになっていて自分でも読めないときがありますよ(笑)。
加藤 そうでしょう⁉ でも、トレーニングノートを持っておくと便利なので、お勧めです。
鈴木 今回はあくまでメニューの一例ですが、初心者トレーニーの皆さんはよろしければ参考にしてみてください!
2分割でおこなうスペシャルメニュー
A・・・ベンチプレス・インクラインマシンプレス・サイドレイズ・プレスダウン・マシンショルダープレス・クランチ
B・・・スクワット・レッグエクステンション・レッグカール・ラットプルダウン・シーテッドロウイング・ワンハンドロウイング・アームカール
鈴木雅(すずき・まさし)
1980年12月4日生まれ 福島県出身。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2009年ワールドゲームズボディビル80㎏級3 位。10年から日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。16年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と二つの世界大会でも優勝を果たした。
加藤直之(かとう・なおゆき)
1981年生まれ、埼玉県出身。2005年に千葉県ボディビル選手権優勝。2012 年ジャパンオープン選手権を制し2014年には日本クラス別選手権70㎏級で優勝。2017年アジア選手権70㎏級3位入賞、2019年には日本選手権3位入賞を果たした。
飯塚さき
1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスの記者として『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、スポーツ庁広報ウェブマガジン『Deportare』などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。