アームカールは上腕二頭筋のエクササイズですが、肩関節を安定させるという機能的な働きもあります。なぜなら上腕二頭筋の長頭が肩関節の中に入り込んでおり、いわゆる「肩関節の安定機構」の役割があるからです。つまり、上腕二頭筋を正しく鍛えることで肩関節が安定し、肩を痛めにくくすることが可能なのです。しかしながら、ほとんどのトレーニーは肩関節の位置がズレており、上腕二頭筋を正しく使えていない場合が多く見られます。
文:井上大輔 <NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会>
正しいアームカールは肩関節を安定させる。
上半身の筋力トレーニングで、よく鍛えられるのは大胸筋と広背筋ですが、この2つの筋肉は両方とも肩関節の内旋筋で、闇雲に鍛えると肩関節をズラしてしまう可能性があります。ボディビルダーで肩関節の可動域が減少している場合、「肩関節の前方移動」という状態になり、腕が背中に回らないなどの支障が出てくる場合があります。そのような場合、棘下筋、小円筋といったような肩関節の外旋筋が硬くなっている場合が多いので、まずは(写真1−1)のようにテニスボールなどでほぐす必要があるかもしれません。
そして使われにくくなっている棘下筋、小円筋を活性化していく必要があります。運動としては(写真1−2)のような「アウトワードローテーション」というエクササイズで、内旋した肩関節をニュートラルな位置に戻す必要があるでしょう。
肩関節が正しい位置に戻ったなら、そこで初めて上腕二頭筋が正しく動くことになります。
今回のエクササイズは世間一般ではあまり「機能的ではない」と呼ばれるアームカールについて検証していきます。
「カヌーから大砲」とは、体幹(カヌー)より腕(大砲)が強くなると船が転覆してしまうことを体にたとえて言われている言葉ですが、腕が弱くて構わないというわけではなく、バランスのことを言います。腕の筋肉を適切に鍛えることで、肩を安定させ、肘の障害も防ぐことが可能です。昨今は体の機能性ばかりがクローズアップされて、腕のトレーニングを軽視しがちな傾向にありますが、「耐久力、障害予防」という観点から見ると、アームカールのような腕のトレーニングもある程度必要だということが分かってくると思います。それでは正しい方法を解説していきましょう。
アームカールの効用
・上腕二頭筋の強化
・肩関節の安定性の向上
アームカールの行い方
ストレートバーのバーベルを肩幅で持ちます。WバーやEZバーを使わないのは前腕を回外させたいからです。上腕二頭筋は前腕を回外する役割もあるので、あえてストレートバーを用います。
ストレートバーを用いる理由はもう一つあります。それはアームカールの動作中、常にバーベルを左右に引っ張るように力を入れるためです。これは前述した肩関節の外旋筋を緊張させることで、肩関節を正しい位置に固定し、上腕二頭筋を効果的に使うことができるからです。バーベルを肩幅に持ち、肩を大きく回します。時計の針で言うと6時の位置で肩関節を固定します。(写真2−1)6時の位置で肩関節が正しい場所にあることと大体一致します。
その姿勢のまま、バーベルを左右に引きちぎるようなイメージで、バーベルを挙上します。(写真2−2)そうすることで肩関節を正しい位置で安定させる効果があります。
動作中、体幹は動かさないように注意し、また、肩の位置が6時の位置を保持したまま行うようにします。
反動を使うチーティングや肩をすくめる動作は、前記のようなストリクトな動作が行えなくなったときに、1、2レップ追加として使うことをお勧めします。まずは、正しいフォームを習得することから始めましょう。
肩関節が前方移動しているトレーニーは、ストレートバーが使いにくく、WバーやEZバーを使いたくなるかもしれません。(写真2−3)しかし最終的に上腕二頭筋を発達させるためには、ストレートバーを使いこなすことが必要となってくるのです。
井上 大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/ NSCACSCS/NPO 法人JFTA 理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF 全日本選手権 第6位。
NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会 TEL:078-707-3111