――減量中はどのようにして使用重量を維持しているのですか。
加藤 僕の場合、減量幅がそこまで大きくはありません。今期のオフの体重は74㎏で、アジア選手権に向けて減量に入った現段階で72㎏。また、オンとオフの食事をそれほど変えておりません。オフの食事は、オンのときより炭水化物の量だけ増やしたような感じでした。オンに入った今も、食事量はそれほど減らしていません。でも、大会の1カ月ほど前になると、重量を維持するのが難しくなってきます。それまでは普段通りの重量を扱っています。
――その大会1カ月前からは、どのくらい落ちるものなのですか。
加藤 去年は10㎏くらい落ちました。ただ、自分のなかに一つの基準があって、「150㎏8発は絶対に切らない」と決めています。減量中もそのラインだけは絶対に崩さないようにしています。
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――「150㎏8発」という基準はどのように決めたのでしょう。
加藤 それが僕にとって、どんなに調子が悪いときでもクリアできる重量なのです。疲れていても、肩に多少の痛みや違和感があっても上げられるラインが「150㎏8発」。だから、減量中でもその数字を下回らないようにしています。
――ベンチプレスをやり込んでいると、必ずと言っていいほど直面するのが肩の痛みです。肩を痛めたときにベンチを休むことは?
加藤 あります。実は去年の12月頃から肩の調子が悪くて、3カ月間ほどベンチを休んでいました。ベンチができないときは、代替え種目の重量を伸ばすようにしています。幸いにもダンベルベンチプレスは問題なくできました。ダンベルベンチプレスの使用重量を「〇㎏まで伸ばす」と決めて、その重量に達してから、肩の様子を見ながらベンチプレスに移行していきました。
――ベンチプレスから離れるときに「上げられなくなったらどうしよう」という恐怖感は?
加藤 そこは割り切りました。「バーを扱えないなら、ダンベルベンチプレスの重量を伸ばそう!」と。恐怖感や不安感は特にはありませんでしたね。
――ベンチプレスを再開したときに使用重量は落ちていました?
加藤 ほぼ落ちていませんでした。初日に「150㎏8発」を上げられて、そこからすぐに160㎏8発まで戻すことができました。
――フォームにおいて、特に注意していることは?
加藤「いつも同じフォームで機械的に行う」ということです。その中で微調整しながら、上げやすい位置を探っていきます。僕の場合は、下ろす位置を微調整しています。まだまだ僕の中には伸びしろがあると思っています。これはベンチプレッサーの方なら共感してくれると思うのですが、同じ重量でもスッと上げられる位置と、重たく感じる位置があります。毎回、その「スッと上げられる」位置に下ろすイメージです。だから、その位置を探せるかどうかですね。探し当てたら、毎回、その位置に機械的に下ろしていきます。
――マックス重量も狙いますか?
加藤 肩の様子を見ながらとなりますが、今はやらないと思います。今年は1RMで202.5㎏を目標にしていたのですが、これは来期に持ち越しですね。重量を伸ばせる時期には限りがあると思います。僕も36歳になりましたが、40歳くらいまでに人生の最大重量記録を作っておくという目標は変わりません。
――高重量と向き合う際の気持ちの作り方は? 独自の気合の入れ方というものはあるのでしょうか。
加藤 特にはないです。「サクッと上げようかな」という気持ちで行っています(笑)。僕は「よし、トレーニングするぞ!」と気持ちを高めてから始めるタイプではないのです。スーっとジムにきて、スーっとトレーニングを始めるといいますか(苦笑)。良く言えば平常心といいましょうか。いつなんどきでもトレーニングができる態勢でありたいのです。常にそういう心構えでいれば、例えば大草原に行ったときでもトレーニングができます。
――トレーニングというものに特別感を抱かないようにしている?
加藤 そうです。もちろん1回1回のトレーニングは大切で、集中して行いますが、いかなる状況や精神状態でもトレーニングができるようにしたいのです。
――インターバルはどのくらい取るのですか。
加藤 ベンチプレスに関しては、約2~3分くらいです。今はメインセットを3本行っています。
――補助種目としては、どのようなものを取り入れているのでしょう。
加藤 やはりダンベルベンチプレスですね。「筋力」と「筋肥大」の“おいしいとこどり”ができる種目という認識があるのです。トレーニングの流れとしては、全身種目を最初に行い、胸全体の種目、各起始部を意識した種目、という順番で行っています。ベンチプレスで基礎的な筋力を養って、ダンベルベンチプレスで胸全体を刺激して、そのあとにデクライン、インクライン、フライ系をやります。
――効かせるための種目を行うにしても、その種目を行うには最低限の筋力が必要?
加藤 はい。僕はそのように考えます。また、効かせるためにも、全身の筋肉を巧く使えるフォームを探していくことが大事だと思っています。ベンチプレスで重量が伸びれば、気分がいいですし、楽しいじゃないですか。
2021年4月12日(月)発売のアイアンマン2021年5月号では、加藤直之選手がBIG3plus1講座として、「ベンチプレス」「デッドリフト」「スクワット」「チンニング」を解説した小冊子が付録として付いてきます。
加藤直之(かとう・なおゆき)
1981年生まれ、埼玉県出身。
身長161㎝、体重69~71kg(オン)74~75kg(オフ)。
●主な戦績
2005 千葉県ボディビル選手権優勝
2014 日本選手権11位、日本クラス別選手権70kg級優勝
2019 日本選手権3位、日本クラス別選手権70kg級3位
トレーニング以外の趣味:子どもの寝顔を見ること。「親バカです(笑)」
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。