スポーツ選手の体力要素の一つである「アジリティ能力」の向上において、今回紹介するスプリットスクワットは効果的です。アジリティ能力について井上先生に聞いてみました。
文:井上大輔 <NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会>
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スプリットスクワット
アジリティとは敏しょう性という意味で、加速、減速、方向転換の能力と深い関わりがあります。サッカー、野球、テニスなどほとんどのスポーツでフィールドを素早く移動するスポーツにとって重要な要素と言えます。その中でも最も重要な「減速」と「スプリットスクワット」は同じメカニズムを有します。その要素とは次の三つになります。
①筋のエキセントリック収縮
②ネガティブシンアングル
③レベルロワー
これらのメカニズムが減速に必要になるのです。次にこれらのメカニズムについてそれぞれ説明していきます。
最初に①のエキセントリック収縮ですが、筋力トレーニングは主にエキセントリック収縮を意識しながら行います。よく言われる「ゆっくりダンベルを下ろす」動作になります。つまり、エキセントリック収縮=ブレーキをかける動作に意識を集中するトレーニングと言えます。ブレーキ=減速のメカニズムと一致するわけです。
②の「ネガティブシンアングル」は(写真1−1)のような下腿(かたい)の角度のことを言います。進行方向に対し、下腿(シン)の角度を鈍角(ネガティブアングル)になるように地面に接地し、斜め下方向に力を発揮することでブレーキがかかります。これも減速に必要な要素です。
③の「レベルロワー」は素早い沈み込み動作です。 減速は体を素早く沈み込ませ、ブレーキをかける動作になります。体の動きでいうと加速がトリプルエクステンション(股関節、膝関節、足関節の三重伸展)なら減速動作はその逆のトリプルフレクション(股関節、膝関節、足関節の三重屈曲)になります。イメージでいうと頭の位置を建物の2階の位置から1階の位置まで引き下ろす、レベルロワー(階を下げる)動きになります。以上が減速動作とスプリットスクワットとの共通する要素になります。
従ってスプリットスクワットを行うことは、減速動作の能力の向上につながると言ってもよいと思います。それでは、スプリットスクワットの実際の行い方について説明していきます。
●スプリットスクワットの効用
・減速能力の向上
・殿筋、ハムストリングス、
・大腿四頭筋の強化
・ケガの予防
●スプリットスクワットの行い方
ダンベルを持ち、足を前後に広げます(写真1 −2)。その状態から若干臀部を後ろに引き、上体を倒すように行いながら沈み込みます(写真1 −3)。このとき前方の下腿が地面に対して鈍角になるように沈み込みの位置を調整します。8回行ったら、足を入れ替えて8回行います。
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●リグレッション(原点回帰)とプログレッション(エクササイズの発展)
◎スプリットスクワットのリグレッション
スプリットスクワットホールド
写真2−1のようなスプリットスクワットのボトムポジションの姿勢で30秒間維持します。重量は自体重から徐々に負荷を重くしていきます。
◎スプリットスクワットのプログレッション
インパクトフロントランジ
写真2−2のような立位の状態から、足を前方に踏み込み「ランジ動作」を行います(写真2−3)。実際の減速動作はスピードが伴うので、少し勢いをつけて素早く踏み込むように意識します。
この時も踏み出した足の下腿が鈍角になるよう注意しながら、左右8回ずつ行います。減速動作は筋のエキセントリック収縮なので、筋肉を肥大させます。陸上の短距離選手より、サッカー選手の方が脚の筋肉が太いのは、サッカーは減速動作が多いからです。ちなみに陸上の短距離は減速動作がありません。従ってエクササイズの目的に対して、エクササイズの特性を考慮しながら、エクササイズ選択を行うことが大切になってくるのです。
このことからもダッシュとストップが多いスポーツは、その能力を高めるために、スプリットスクワットは有効な種目であると言えるでしょう。
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井上 大輔(いのうえ・だいすけ)
兵庫県神戸市出身。滋慶学園大阪ハイテクノロジー専門学校スポーツ科学科トレーニング理論実習講師/整体&パーソナルトレーニングジムを経営(兵庫県明石市)/ NSCACSCS/NPO 法人JFTA 理事長/17歳よりトレーニング開始。大学卒業後、スポーツクラブに就職、スポーツコンサルティング事業にかかわる。同時に操整体トレーナー学院学長松下邦義氏に師事、操整体について学ぶ。/2006年NBBF 全日本選手権 第6位。
NPO法人 日本ファンクショナルトレーニング協会 TEL:078-707-3111