ボディビルやフィジークなどのコンテストを観戦すると、多くの人が「自分もあんな体になりたい!」「さっそくジムに通うぞ!」と意欲が高まったりする。これはよくある話で、フィジーク系コンテストの影響を強く受けて、さっそくジムに入会する人は実際に多い。もちろん、入会した直後はしばらく通うわけだが、結果がすぐに得られないことが分かると、いろんな言い訳をして、やがて会費だけが引き落とされる幽霊会員になる。これもよくある話だ。憧れの肉体を手に入れるまでトレーニングを続けることは決して簡単ではない。忍耐強く、一歩一歩を着実に進んでいき、小さな結果を少しずつ積み重ねながらゴールに向かっていく。これは体づくりに限らず、世の中の多くのことに共通していることなのだ。
ただ、忍耐強く続けろと言っても、それはあまりに漠然としている。例えば、もし途中放棄しないで済むようなガイダンスがあったらどうだろうか。きちんと導いてくれるようなアドバイスがあったら、もしかすると投げ出さずに続けられるかもしれない。今回は、長続きしない悩みを抱える人たちに手を差し伸べる話をしていきたい。
第1段階
なぜトレーニング
を始めたの?
何をするにも理由があるはずだ。わけもなく始まることなど何もないのだ。例えば、どうして筋肉をつくりたいと思ったのかを自問してみると、かっこいい体になりたいという答えが必ず返ってくる。ジムに通っている人たちに「なぜトレーニングしてるの?」と質問したら、おそらく聞かれたほうが不思議な顔をするだろう。答えは決まっていて、かっこよくなりたいし、健康を維持したいからだ。
しかし、それならどうしてもっと早く始めなかったのか? なぜ今の今までジムに行くのをためらっていたのか?言われてみればそのとおりなわけで、もっと深く自問してみると、本当の理由が見えてくるはずだ。自分がどうしてこのタイミングでジムに通う決心をしたのか、どうしてかっこよくなりたいと思ったのか、理由がどんどん絞り込まれ、明確になっていく。
そうしてたどり着いた理由こそがワークアウトを続けていくための本当の原動力となり、モチベーションになるのだ。上っ面の理由ではなく、本当の目的を追求しよう。トレーニングを長続きさせるためには、核となる理由を明確にすることが何よりも大切なのだ。
なぜトレーニングをしようと思ったのか、その本当の理由が明確になると、どんなトレーニングをやるべきなのかが見えてくる。例えば、本当の理由が自分の体型のシルエットに関連したことであるなら、どこをどうしたいのか、そのためには何をすべきなのかが絞られてくるはずだ。
シルエットの改善というと背幅を広げる、胴部を引き締める、肩を大きくする、大腿四頭筋の幅をつくるなどが挙げられるわけで、そのためにはどんな種目をどのように行えばいいのかが明確になってくるはずだ。あるいは、パワーリフティングで記録を出すことが本当の理由なら、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスの3競技の重量を伸ばしていくわけだが、そのためにどのような補助種目が必要なのか、どのようなサイクルで種目を行えばいいのかが明らかになってくるはずだ。
このように「なぜ?」を突き詰めていくと、やるべきことがはっきりしてくる。そしてそれがモチベーションになり、トレーニングを継続するための原動力になるのである。
第2段階
トレーニング
開始前の準備
トレーニングを始めてからしばらく経つと、自分は今、どれだけ成長できたのかが客観的に知りたくなる。それを知ることでモチベーションを高く維持したままトレーニングを続けることができるからだ。しかし、今の自分の状況は分かっていても、トレーニング開始当初に何も記録していなかったりすることが多い。
そうなると基準になるものがないので、どれだけ自分が成長し、改善できたのかが分からなかったりする。そこで、トレーニングを開始する前に記録を「ビフォー」として残しておこう。
メジャーを使って測定する
●腕囲(上腕部と前腕部) ●脚囲(大腿部とカーフ) ●胸囲 ●胴囲
体重計を使って測定する
●体重 ●体脂肪率。多少の誤差があったとしても、トレーニング前の基準値として利用することができるので気にする必要はない。
●特定の数値を入力すると、自動的に体脂肪率を計算してくれるサイトもある。たとえばcalculator.netのようなサイトでは、性別、年齢、体重、身長、首囲、ウエスト、ヒップの数値を入力すると、自動的に体脂肪率を算出してくれる。ちなみに、一般的に体が引き締まっていると言われる男性の体脂肪率は6〜13%、女性の場合は14〜20%だ。筋肥大が目的でもコンテストボディビルダーでない限りはバリバリに絞る必要はないので、男性なら13%、女性なら20%を目標にするといいだろう。
●体脂肪率の測定にはキャリパーや専用の体脂肪測定器を使うこともできるので、興味があればネットで検索してみるといいだろう。
第3段階
長期目標と短期目標を立てる
第3段階では、現実的な目標を立てたい。目標は、短期目標と長期目標を分けて考えるようにするといい。最終的な目標だけだと、あまりに道のりが長くて途中で挫折しかねない。短期目標を用意しておけば、まずはそこを目指して進むことができる。それをクリアできたら、また次の短期目標に向かって進み、それを繰り返すことで長期的なゴールに到達することができるのだ。
このようなやり方は意欲を維持し、体づくりを途中放棄しないためにもとても有用な方法なのである。日常生活の中でワークアウトを最優先しているという人はそれほど多くない。だから、急な用事で予定していたワークアウトを休まざるを得なくなることもたびたびあるはずだ。そんなときは焦らずスケジュールを調整し、臨機応変に対応すればいい。
自分の立てたトレーニング計画にがんじがらめに縛られないこと。これはトレーニングを継続していくためにはとても重要なことである。ただ、休むことが癖になってしまわないように。健康維持のためのトレーニングであれば、たとえ一時的にサボりがちになってもジムに戻ってくることが多い。
それは、トレーニングがストレス発散になるし、楽しいと感じられるからだ。しかし、体づくりが目的だとそうはいかないようだ。もちろん、やむを得ずトレーニングを休むことは希にあるとしても、目標を定めて計画どおりに体づくりを進めていくなら、トレーニングの優先順位はできるだけ上位にしておく必要がある 第1段階で自問自答したことを思い出してみよう。なぜトレーニングを行うのか、なぜ体づくりをしたいのかについて明確な答えを出すことができた人であれば、トレーニングはもはやその人には必須の存在であり、やたら休んでいられなくなるはずだ。
短期のゴールを定めること。そして、できるだけ予定したとおりにトレーニングをこなしていくこと。それを繰り返していくことが、長期的にトレーニングを続けるための大切な鍵となるのである。では、短期のゴールとは具体的にどのようなものなのだろうか。例えば使用重量をスタート時よりも5㎏増やす、1カ月で10レップ伸ばす、体重を1㎏落とす、上腕囲を0.5㎝太くするなど、どんなことでもかまわない。ただし、短期間で実現可能な目標にすること。
鳥のような細い脚を太くするにはどれだけの期間が必要だろうか。これについてニューメキシコ大学の運動学者であるレン・クラビッツ博士は、ウエイトトレーニングを開始してから最初に反応を示すのは神経系であると述べている。つまり、トレーニングの刺激が対象筋に伝わると、まずは神経系が刺激を受けて反応し、今までより強い力が出るようになる。力が強くなると、次は筋肥大が起きるようになるわけだが、明らかに対象筋がサイズアップしたと分かるのは、トレーニングを開始してから早い人で4週間、遅くとも8週間目には「目に見える結果」を得ることができるということだ。
これが事実だとすれば、まずは自分の筋力が伸びていく様子を確認しよう。筋力向上の先に筋量増加が待っていると分かっていれば、使用重量の伸びを実感しながら筋肥大を楽しみに待つことができるはずだ。
第4段階
筋肥大のための
トレーニングとは
見た目を改善していくためのトレーニングと、筋力やパワーを向上させるためのトレーニングとでは、実践する内容が異なってくる。
目的が異なるのだからやり方が違うのは当然だと思うかもしれないが、筋力が伸びるタイミングと筋量がアップするタイミングが重なる時期があるのだ。つまり、筋力向上のためのトレーニングでも筋肥大は多少なりとも起こるし、逆に、筋肥大のためのトレーニングでも筋力は伸びる。
だったら、目的に関わらずどちらのタイプのトレーニングを行ってもいいではないかと思うかもしれないが、実はそうではない。筋力向上、筋量増加にはそれぞれ適したやり方があるのだ。ただ、これからジムに通って本格的なトレーニングを開始しようという人たちに、あまり複雑な話をするのはマイナスだ。
第5段階
途中で
挫折しないために
計画したプログラムに沿って進めていくというが、実は、これが難しいのだ。そこで、プログラムを開始する前に、いくつかの注意事項を確認しておこう。事前に理解しておくことで、今後、直面する数多くの難所で立ち止まったり諦めたりすることなく乗り越えていけるはずだ。
自分が定めたゴールは、トレーニングを続ける意欲やライフスタイルに合致したものがいい。非現実的なゴールでは、やがて意欲は失われ、ライフスタイルにも合わなくなってくる。肝心なことは、自分の日常生活の中にトレーニングを確実に組み込むこと。そして、トレーニングを続けることで達成できる現実的な目標を定めることだ。
無計画にゴールを決めて、何とかしてその目標を達成しようと無理をしてしまい、結局燃え尽きたり、ケガをしたりしてトレーニングを断念せざるを得なくなる例は無数にあるのだ。トレーニングを開始して結果を出し続けることは簡単なことではない。簡単ではないが、諦めずに継続すれば結果は自ずとついてくる。1カ月目のゴール、半年後のゴール、1年後のゴールというように細かくゴールを設定するのも意欲を維持するための有効な手段だ。
このようにゴールを細かく短期間に区切って設定することで、進むべき方向を違えることなく着実に前進することができる。体づくりというものは、どんなに焦っても一朝一夕には結果は得られない。近道もない。必要なのは意欲と覚悟、そして計画だ。そのことを肝に銘じて、本格的な筋量アップトレーニングを早速開始しよう。