昨年のマッスルゲート、ゴールドジムJAPAN CUP で一気に全国区の選手になったのがメンズフィジーク176㎝以下級の伊吹主税選手である。そのバルクは注目を集め、マッスルゲート神戸では総合優勝。続くJAPAN CUPでは穴見一佐選手とオーバーオールで接戦を演じた。前年の2019年はオールジャパン選手権で8位。1年間で急成長を見せた伊吹選手のトレーニングに迫った。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩
――本日は肩のトレーニングを拝見しました。トレーニングは腹筋から入るのですね。
伊吹 腹筋はジムに行くたび、毎回やっています。最後だと時間がなくなってしまったり、疲れてしまったり、(腹筋ができない)いろんな理由ができてしまいます。でも、最初にやると決めておけば、毎回のトレーニングで腹筋ができます。また、最初にやることで、ベルトを締めたときに腹筋に力を入れやすくなるんです。最初にやったほうが腹圧をかけやすくなってトレーニングの質がよくなる、という理由もあります。
――第1種目は28㎏でのダンベルショルダープレスでした。可動域を広く取っていました。
伊吹 フルの可動域でボトムでのストレッチ、挙げ切ったときの収縮を意識しています。
――上体に対して真上の軌道に挙げていました。
伊吹 僕は背中のアーチをあまり作りません。アーチを作りすぎると、胸の上部などに入ってしまうんです。だから極力、上体は直立させるようにして、意識としては、(頭の)後ろから挙げるイメージでやっています。感覚的にはバックプレスに近いです。
――そのあと12㎏でのダンベルのアーノルドプレスに切り替えて挙げられるだけの回数をやり、次にスタンディングでのアーノルドプレス。ここまで1セットでした。
伊吹 ショルダープレスではストレッチと収縮を意識して、オールアウトを狙っていきます。次にシーテッドのアーノルドに切り替えてストレッチを丁寧にやり、スタンディングのアーノルドでは収縮を意識します。挙げたときに内旋させて、より収縮を強くしています。ここでは膝を曲げて、(チーティングで)上まで挙げて、上腕を内旋して肘を伸ばし切り、肩を強く収縮させます。
――第2種目のマシンショルダープレスはシートに逆向きに座っていました。
伊吹 これもバックプレスに近い動作です。ダンベルショルダープレスだけだと、「脚のトレーニングをスクワットだけで終える」みたいな感じになってしまうんです。マシンのショルダープレスは、スクワットのあとにやるレッグプレスのような位置づけです。
――最初は広い可動域で、ドロップセットで重量を下げてからはミッドからトップのパーシャルレンジで追い込んでいきました。
伊吹 そこに至るまでストレッチでかなり効かせているので、このドロップセットでは収縮を意識しています。
――次は顔を天井に向けて行うダンベルプレスです。タンディングでのアーノルドプレス。ここまで1セットでした。
伊吹 ショルダープレスではストレッチと収縮を意識して、オールアウトを狙っていきます。次にシーテッドのアーノルドに切り替えてストレッチを丁寧にやり、スタンディングのアーノルドでは収縮を意識します。挙げたときに内旋させて、より収縮を強くしています。ここでは膝を曲げて、(チーティングで)上まで挙げて、上腕を内旋して肘を伸ばし切り、肩を強く収縮させます。
――第2種目のマシンショルダープレスはシートに逆向きに座っていました。
伊吹 これもバックプレスに近い動作です。ダンベルショルダープレスだけだと、「脚のトレーニングをスクワットだけで終える」みたいな感じになってしまうんです。マシンのショルダープレスは、スクワットのあとにやるレッグプレスのような位置づけです。
――最初は広い可動域で、ドロップセットで重量を下げてからはミッドからトップのパーシャルレンジで追い込んでいきました。
伊吹 そこに至るまでストレッチでかなり効かせているので、このドロップセットでは収縮を意識しています。
――次は顔を天井に向けて行うダンベルプレスです。
伊吹 挙げるときにダンベルを握り込むんですが、収縮感がすごいんです。挙げ切ったときに力が入って、身体がプルプルと震えるくらいです。収縮の練習兼トレーニング、という位置づけの種目です。挙げ切ったところで一旦止めて、そこから深く下ろしていきます。
――そして次の種目なのですが…、名前が分からないのでここでは仮に「ケーブル・アップライトロウイングプレス」とします。アップライトロウイングからプレス動作に移行します。
伊吹 これは僕の印象なのですが、ボディビルのダブルバイのポーズでは、肩にかなりの力が入ると思うんです。その(肩関節内旋から外旋に)切り返す瞬間に、フロントから中部、後部にかけて刺激が入ります。この種目では、その切り返す瞬間も肩に負荷を乗せ続けた状態になるんです。
――なるほど。アップライトロウからプレス動作に移行する瞬間のキューバンプレスのような動作の際にも負荷をかけられるということですね。
伊吹 そこからはショルダープレスの動作になるので、強い収縮もかけられます。だから動作中、常に刺激が入りっぱなしなんです。ハンドルを保持するときも、ずっと外側に開くように力を入れ続けています。
――そして、挙げられなくなったらアップライトロウイングのみ、さらに挙げられなくなったら重量を落としてドロップセットで追い込んでいきました。
伊吹 重量を下げていくにつれて、より丁寧に行うようにしています。だから、軽くすればするほど、キツくなっていきます。
――最後がワンハンドのケーブルサイドレイズです。
伊吹 最大収縮をかけられる位置まで挙げていきます。挙げられなくなったら、チーティングを使ってその位置まで挙げます。
――どの種目も1セットの内容が非常に濃いです。
伊吹 普段はヘッドフォンをつけてやっています。音量マックスで洋楽をかけてやらないと、精神的にキツいです(苦笑)。肩は翌日に筋肉痛があまりこない部位です。だから「肩がダルい」という感覚が(オールアウトした)目安だと思っています。
――また、収縮とストレッチの意識を重視されています。
伊吹 メンズフィジークでは肩の丸みは大事です。丸い肩を作るポイントは、三角筋をどれだけ収縮できて、どれだけストレッチできるかだと思っています。トレーニングで高重量を扱って大きな肩をしておられる方はたくさんいらっしゃいますが、大きさがあっても丸みがないという方は、収縮とストレッチの意識ができていないからではないかと思います。
――三角筋は意識しづらい筋肉でもあります。
伊吹 だから、僕も最初は軽い重量でサイドレイズをかなり練習しました。姿勢であったり、肩のポジションであったり、肩のお皿(サイドヘッド)の向きであったり。サイドレイズは、やっているうちに身体がのけぞってくる人が多いです。それではフロントに入ってしまいます。チーティングを使っても、肩のお皿は床と並行に保つようにする。そういう基本があってこその応用です。
――トレーニングにも練習が必要、ということですね。
伊吹 ベンチプレスをあまり挙げられないのに、インクラインから始めるような人もいると思います。コンテストでトップ3に入るような人は、ベンチプレスで120㎏以上は挙げられるような基礎的な筋力は持っていらっしゃると思います。そうした基本ができていないのに応用に走るのは、泳げないのにバタフライをやろうとしているようなものです。
――伊吹選手は小学3年生から高校3年生までの10年間、野球をやっていたそうですね。ベンチプレスは部活の補強でもやっていたのですか。
伊吹 ベンチプレス、スクワットはやっていました。ただ、今はベンチプレスは140㎏を挙げられるのですが、高校3年生のときは70㎏しか挙げられませんでした。
――トレーニング歴自体は、さほど長くはないのですよね?
伊吹 地元の市営のジムでベンチプレスだけはやっていたのですが、そこでトレーニングが大好きな4歳ほど年上の方と出会って、いろいろと教わりました。そこはラットマシンもなくて、ダンベルも重たいものがなく、プレートを無理やりつけて重たくしていました。そこで「工夫をしてトレーニングをする」という習慣がつきました。そして、その方に「一緒にちゃんとしたジムに入ろう」と誘われて、地元のジムに入会しました。これが2018 年12月のことです。
――メンズフィジークの大会に出場するようになったのは?
伊吹 その新しく入ったジムで、メンズフィジークの大会に出場経験がある人にも出会ったんです。僕も興味が湧いてきて、「出るんだったら早いほうがいい」と勧められ、入会した8カ月後に関西オープン選手権に初めて出場しました。
――そこでトレーニング内容もガラリと変わったのでしょうか。
伊吹 かなり変わりました。ただ、とにかく上半身をでかくしないと大会に間に合わなかったので、当時は脚をやっている時間がなかったです。また、背中のトレーニングの感覚も全然掴めていませんでした。とにかく重たいのを引けばいい、と思っていました。
――そして迎えたデビュー戦は?
伊吹 カテゴリーで優勝できました。オーバーオールでは4位で、そのときの1位が西崎空良君でした。
――同年のオールジャパンは?
伊吹 8位でした。そこで感じたのは、1位の佐藤綾選手とのバルクの差でした。仕上がり体重が3㎏も違っていたんです。これは負けて当然だと思いました。そこからトレーニングでは、重量を扱うようにしました。特にBIG 3をしっかりとやるようになりました。そこから体重が増えていき、重量も伸びていきました。基本種目をやり込むことで、応用も効かせられるようになりました。
――現在の分割は?
伊吹 肩はやれるときにやるので、結果的に週に3回くらいやっています。「胸と肩フロント」「背中と肩」がベースで、そこに腕を加えたり、時間の関係で加えなかったりします。腕は、胸の日は上腕三頭筋、背中の日は上腕二頭筋をやります。そして「脚と肩」もしくは「脚と腕」です。基本がこの3分割で、たまに今日のように「肩」単体をやることもあります。
――ちなみにお仕事は?
伊吹 新幹線の運転士です。仕事の日は新大阪- 東京間を1日最大で3本乗って、基本的には泊まりになります。
――だから、トレーニングの分割はキッチリと組むのではなく、フレキシブルにしてあるのですね。
伊吹 はい、連続してトレーニングできることもあれば、数日間できないこともあります。また、例えば胸のトレーニングをやった翌日、あまり効いていないようだったら、もう1回胸のトレーニングをするようなこともあります。
――高重量を扱う種目は?
伊吹 どの部位でも、最初に重量を扱う基本種目を持ってくるようにしています。今日の場合はショルダープレスです。しっかりとストレッチと収縮を意識しながら、動かせなくなるくらいまで追い込んでいきます。だから、「重量を扱う」といっても、そこまでの高重量ではできないです。
――ただ、トレーニーの性として、周囲の人がもっと重たい重量でやっていたら、自分もやりたくなりませんか?
伊吹 僕は何とも思わないです。人は人、自分は自分です。僕はジムに「トレーニングをしに行く」というより「研究しに行く」という感覚なんです。「こうしたほうが刺激が入るな」とか、この期間はこの種目をやってみよう、とか。その研究の成果を発表する場がコンテストです。
――競技における現在のモチベーションは?
伊吹 日本代表のジャージーを着たいです。背中に「JAPAN」と書かれたジャージーを着て、世界大会に行きたいです。本当は去年、20代のうちに日本一になりたかったんです。コロナで大会がなくなってしまったので、30歳になる今年、日本一を目指します。僕は何でも、やり始めの時期が一番伸びると思っているんです。プロテインを飲むようになって、まだ2年しか経っていません。サプリメントも、摂り始めたころに一番効果を体感できると思います。そう考えると、3年目の今年は勝負の年だと思います。