その競技の頂点を射止めた王者たちも、かつてはみんな初心者だった。トライ&エラーを繰り返し、階段を昇っていったレジェンドたち。その過程で経験したしくじりには、未来の優勝につながるヒントが隠されていたはず。ベンチプレス世界王者・児玉大紀選手に自分を育てた失敗を語ってもらった。
取材・文:藤本かずまさ
たくさん練習すれば強くなる。やりすぎたらケガをする
僕もケガはいっぱいしてきました。調子がいいときほど、ケガをしやすいんです。調子がいいときに調子に乗って練習していたら、どこかを痛めてしまうということはよくありました。結果、それでヘルニアを患うことにもなりましたし、肩も壊しました。たくさん練習をすれば強くなる。でも、やりすぎたらケガをする。そこは隣り合わせなんですよ。
僕も昔は先輩から「絶対にいつかはケガをするから、考えて練習したほうがいい」「やりすぎはよくない」と言われました。自分は大丈夫だろうと思っていたんですが、先輩の言う通り、やっぱり壊れてしまいました。ただ、1回はそういう経験をしないと、分からないことも多いと思います。強い選手は、よく練習しているものです。自分も「強くなりたい」という気持ちが強いから、どうしても練習量が多くなる。どこで自分自身にストップをかけるか、そこはやり込んで覚えていくしかないかもしれません。
また、練習で重たい重量を扱って練習していた時期は、あまり伸びませんでした。初心者にありがちなのは、「スピードが重要」と言う人が多いですが、挙上スピードにこだわりすぎてコースがバラバラになってしまうことがよくあります。スピードよりも動きを重視したほうがいいです。僕も自分が正しいと思っていたコースがじつは正しくなくて、肩を痛めてしまった経験があります。
そうならないためにも、重量には振り回されないほうがいいです。初心者のうちはオーソドックスな10回3セットなどの方法である程度の重量を扱ったほうがいいですが、トレーニング歴が長くなると、そういう練習はやめたほうがいいと思います。
僕がやっているメニューはいたってシンプルです。200㎏とか210㎏を振り回すようにして上げているときよりも170㎏をきれいに上げているときのほうが調子がいいです。そこできれいに上げられていると、いざフルギアで300㎏に臨むとなったときも上げられます。自分のイメージ通りに動かせるようになったら、今度は力が入る点を探して、その次の段階としてスピードになっていきます。
ただ、練習を積んでいって、スムーズに動かせるようなって、力の入る点を見つけて…となったときに、「次はこういうことをしたらいいんじゃないか」ということがどうしても脳裏によぎるんです。そこで思いついたことを試すので、なかなかスピードを出すというところまではいかないんです。
いまだに故障はつきものです。よかれと思って続けて、そこからどうやればスムーズに動くかということを考えて、力が入る点を探して、ということの繰り返しになります。そこでケガをする前の数字を越してきたときに、どう工夫すればもっと上げられるようになるかを考える。だから、スピードをつけるというのは、もっと先の作業になるんです。