IM 尿検査だけではなく、近年では血液検査も実施されていると聞きました。
鈴木 血液検査は採血をするのでドクターもついてきます。私は2年前に受けましたが、朝6時に来て「今から血液検査やります」と。心拍数が下がるまで15~20分間安静にするんですが、朝イチから血を抜かれてその日はゲンナリしてしまいました(苦笑)。しかも、その検査の1週間前に尿検査も受けていたので、「そこまでやるか」という気分でした。私じゃなくて、もっといろいろな大会で検査する数を増やした方がいいんじゃないかとも思いましたね。国際大会に出る選手はしつこいくらいに何度も検査を受けています。それこそ地方大会の検査数を増やして、ローカルからボディビルがクリーンなことを証明していく必要もあると思いました。
IM JBBFの玉利齊前会長も、国ごとにドーピングチェックの徹底度に差があるとおっしゃっていました。海外の選手から見れば、日本選手がクリーンで出場してくること自体が不思議に思えるのかもしれません。世界大会ではドーピング検査の対象選手はどのように決まるのですか?
鈴木 IFBBの世界大会ではドーピング検査をやる時とやらない時があって、選手の選び方もいろいろあります。決勝進出者のゼッケンを並べて役員が決めたり、クジを引いて決めたりします。4年前にエクアドルでやった世界大会では、決勝に残った6人がボールを引くという方法で決めました。袋の中に白色のボール5個と黄色のボール1個が入っていて、黄色を引いた人がドーピングチェックを受けることになっていました。そして私も含めて4人が引いて黄色が出なくて、次にエジプトの選手が黄色を引いたのですが、黄色が見えた瞬間に袋の中にポトッと落としたんです。それで「俺は見てない。もう1回引かせろ」と。それで結局白を引いたんです。最後の選手は黄色を引いて、ガックリしていましたけど、陽性にはならなかったようです。
そういう海外の選手からしたら、検査を免れればラッキー、運悪く指名されたら終わり、という感覚なのかもしれません。2013年の世界大会では、検査に指名されて泣きわめいている選手を吉田進さんが引っ張ってきたのを見ました(苦笑)。
IM もはや無法地帯ですね。その中でクリーンな日本人選手が戦わなければならないのはつくづく不公平だと思います。
鈴木 きちんとドーピングチェックをしているのはIOC(国際オリンピック委員会)が後援しているワールドゲームズやアジアンゲームズです。検量室にWADA(世界アンチ・ドーピング機関)の役員がいて、怪しそうな選手がいたら、その場で指名して検査していました。結局、優勝者の大半が陽性になり、ワールドゲームズの種目からボディビルは外されてしまいました。
IM ここ数年、国内のドーピング検査で毎年ボディビルから陽性が出ているというのも残念です。昨年度は4名の違反が出ました。
鈴木 一人が違反するだけで、ボディビルダーはみんな使っていると思われてしまうのは悔しいです。ボディビルが普及していかない理由はそういう辺りだと思います。ウエイトトレーニングをしている人に対しても、悪いイメージがついてしまいかねません。個人的にはドーピング違反の制裁はもっと厳しくした方がいいと思います。特に(蛋白同化)ステロイドが出たら永久追放にしてもいいのではないでしょうか。JBBFの規定では罰金が40万ですが、それも業界への影響を考えたら安すぎると思います。
IM 日本のトップ選手たちが日々検査を受けてクリーンであることを証明しているのに、違反が出ればニュースでも報道されます。業界にとって非常に悪影響です。
鈴木 そうなんです。周りからもニュース出てたね、なんて言われます。そこでJADAにお願いしたいのが、選手別のドーピング検査結果の公開です。私はこれまで50回以上ドーピング検査を受けてきました。コンテストの出場回数よりも検査回数の方が多いくらいです。それを公開することで、大多数の選手がクリーンであることを知ってほしいです。
IM 「クスリを使わないと鈴木選手みたいな体になれない」と本気で思いこんでいる人もいると聞きます。そういった方にはぜひ公表したい情報ですね。
鈴木 そういう発想って、自分は発達しないと思っているから出てくるわけです。「素質がないから」という方もいますが、じゃあ、私や合戸さんと同じくらいのトレーニングをやってみろと言いたいです。本当に限界までトレーニングをやっているのか、それを継続できているか、自問自答したほうがいいです。先ほど世界大会の話で、海外の選手が“使っている”なんて言いましたが、じつはあまり言いたくないんです。検査に引っかかって「ああやっぱり」となるだけで、同じ土俵で戦う以上、相手がどうであれ、勝つつもりでトレーニングしていますし、これからもナチュラルを貫き通します。特別なことは何もありません。今やってることをどれだけ突き詰めてやっていけるかということが大事だと思います。
鈴木 雅
1980年12月4日生まれ。福島県出身。身長167cm、体重80kg ~83kg。株式会社THINKフィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌2005年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2010年からJBBF日本選手権で優勝を重ね、2018年に9連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。DMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾”は好評を博している。