栄養とサプリメントのスペシャリスト・桑原弘樹氏に聞くビギナー向けサプリメント講座。たくさんのサプリメントがあるなかでどれをまず買い揃えればいいのか。桑原氏に聞いた。
取材・文:飯塚さき 監修:桑原弘樹
必須アミノ酸のEAA
ビギナーの活用方法とは
前回は、プロテインについて詳しく紹介しました。今回お話しするのは、「アミノ酸」についてです。アミノ酸関連のサプリメントは多々ありますので、特徴や摂り方などについて順番に紹介していきましょう。
まず一つ目はEAA。Essential Amino Acid(必須アミノ酸)の頭文字で、私たち人間が体内で作れない必須アミノ酸9種類のことです。身体で作れないので、食事やサプリメントなど外から取り入れます。
この9種類のアミノ酸には、それぞれで必要な量が異なるという特徴があります。例えば、必要量が1のところ0.5しか摂れていないと不十分です。逆に2摂取しても、余った分はあまり意味がありません。家を建てるときの柱と同じです。すべての柱は同じ大きさではなく、小さいものはそれなりの役割があって、大きすぎてもいけないし、逆に大きな柱が必要なところに小さいものだと不安定になります。アミノ酸も、理想とされる割合があるということです。
これらの必須アミノ酸は、肉や魚、卵、大豆などから摂ることによって、身体の中で使われます。栄養価の高い食材というのは、必須アミノ酸がきちんと入っている上、必要量に対する比率も、少なくともマイナスはないということです。こういった食材よりも、より合理的にアミノ酸を配合したのがEAAのサプリメントです。どんな高級な赤身の肉も、足りないアミノ酸はなくても、必要量をオーバーしているものがあります。しかし、人間が計算して配合したサプリメントは、唯一無駄がゼロの食品といえるでしょう。EAAがなぜ流行っているかというと、理論上は無駄なく身体に必要なものが確実に摂れるからです。もちろん、だからといって肉や魚を食べなくてもいいわけではありませんが、仕事の合間やトレーニングの際など、様々なシーンで手軽に摂れるため、利用価値があります。
トレーニーの間でEAAが人気な理由は、単なる栄養としてだけではなく、血中アミノ酸濃度を高めておくことができるからです。血液中のアミノ酸濃度を高くしておくと、筋肥大を筆頭にボディメイクがしやすいため、フィジークでも人気を博しています。初心者にも使い勝手がいいと思います。
プロテインの代わりになるものと考えられているケースもありますが、EAAの特徴は、摂って数十分ですぐに血中アミノ酸濃度が上がり、すぐに下がることです。プロテインは逆に上昇に時間がかかるので、「代わり」ではなく、2つを使い分けること。一方で、プロテインをしっかり飲んでいれば、一日を通じて血中アミノ酸濃度を維持できるので、EAAは使わなくてもいいかなとも思いますが、シェイカーでプロテインを使って飲みにくいシーンで補完するのはありです。
ゴールデンタイムでいうと、いきなりプロテインを飲んでも血中アミノ酸濃度はすぐに上がってきませんが、EAAを飲んでからプロテインを飲むと、EAAがまず上がってくれて橋渡しができます。ただし、これは中上級者向けの使い方なので、順番としてはまずプロテインをしっかり使えるようになること。その上で、EAAとうまく使い分けてください。
ビギナーへおススメの
BCAA使い方やEAAとの違いは?
ビギナーに勧めたいのが、BC A A。これは、9つの必須アミノ酸のなかの、バリン、ロイシン、イソロイシンの総称です。つまり、B C A AはEAAの一部であり、EAAは9つ揃ってのチームプレイが前提ですが、そのなかでも単独(バリン、ロイシン、イソロイシン)で機能することができます。では、この3つはどういう役割をしているのでしょうか。
アミノ酸は、酵素の影響を受けて脱アミノ化、つまり代謝していきます。アミノ基を外す酵素の多くは肝臓にありますが、B C AAを代謝する酵素の場合は肝臓ではなく筋肉にあります。筋肉を動かすと、B C A Aを代謝する酵素が元気になり、B C A Aが代謝されます。トレーニング時にはBCAA の代謝がより進みますから、そこにB C A Aが十分にない状態にあると、今度は筋肉内のBCAA を代謝してしまう、いわゆるカタボリックの状態になってしまうのです。つまり、トレーニングを頑張れば頑張るほどアミノ酸のバランスが崩れてしまいます。そこで、あえてB C A Aを単独で入れることで、筋肉が守られるのです。
B C A Aが代謝すると、乳酸を生み出さない経路でエネルギーになってくれます。トレーニングが辛くなるひとつのきっかけは乳酸ですが、B C A Aが第3のエネルギー源となって、より頑張れるということです。
さらに、代謝酵素とは別のメカニズムで、集中力を維持してくれる機能もあります。血液中では、B C A Aの3つのアミノ酸と、トリプトファンというアミノ酸がバランスを取っています。どちらも、脳へ行くための通り道である血液脳関門が一緒で、同じトランスポーターという渡し船によって運んでもらっていますが、脳での役割は異なり、トリプトファンはセロトニンという脳内伝達物質になります。セロトニンはノルアドレナリンなどの暴走系の神経伝達物質の調整役でもあり、眠りにつく際にはとても大切な物質ですが、トレーニング中に分泌されると、ブレーキがかかってしまう。BC A Aが消費されて少なくなると、トリプトファンが相対的に優先されて脳内に行くことになるので、脳内でセロトニンが作られやすい状態になり、集中力が途切れるのです。逆に、B C A Aをどんどん入れると、トリプトファンがトランスポーターに乗れないため、集中力が維持されるという仕組みです。
このように、たくさんの機能があるB C A A。最近は、なかでもロイシンが一番筋タンパクの合成に役立っていることが分かっています。ロイシンからHMB という代謝副産物が生まれ、このHMB が筋タンパクの合成のスイッチを押してくれるのです。筋肉分解の抑制、エネルギー源、集中力維持といった機能をもって、なおかつ筋肉に多く含まれるアミノ酸なので、トレーニングにとってはありがたいアミノ酸です。ビギナーにとって、プロテインの次はB C A Aを取り入れるのをおススメしておきます。
飲むタイミングは、トレーニング前とトレーニング中。もし、EAAと併用する場合は、EAAはトレーニング前、トレーニング中はB C A A、終わったらEAAを飲んでからプロテインという順番です。素早く吸収できるアミノ酸とゆっくり分解されるプロテインを同時に混ぜて飲んでしまうのはもったいないのでおススメしません。アミノ酸は空腹時、プロテインはアミノ酸の後という順番が理想的です。
今こそ注目!
免疫を維持するグルタミン
そのほかにも取り入れてほしいアミノ酸はいくつかあって、そのひとつがグルタミンです。グルタミンは非必須アミノ酸なので、9つのなかには入っていない、体内で作れるものです。20種類の遊離アミノ酸のなかで、圧倒的に多いのがグルタミン。20種類のうち、なんと6割はグルタミンなんです。たくさんあるということは、それだけ大切なアミノ酸であるともいえます。
グルタミンの栄養や機能はまとめると
・肝機能の向上や成長ホルモンの増殖
・アンチカタボリックの作用
・筋タンパクの合成促進
・消化管のエネルギー源
・免疫賦活作用
・抗酸化
などです。免疫賦活作用とは免疫細胞が元気になることですが、免疫細胞とは白血球のことで、オーバートレーニングになると、体内のグルタミンが消耗されて足りない状態になります。リンパ球もマクロファージも、免疫グロブリン(抗体)も、グルタミンがしっかりと充足されていると元気になるので、まさにコロナ禍でこそグルタミンの摂取がお勧めです。
ワクチンの順番待ちも来年になりそうななかで、できるのは予防と自然免疫を高めることです。まずは体内にウイルスを持ち込まないために、マスクの着用や手洗い・うがいといった予防をするのですが、万が一入ってきてしまったウイルスに対して戦えるのが自然免疫であり、免疫細胞です。これがグルタミンをえさにしているので、グルタミンが体内にたくさんある人はウイルスと戦える力が強いことになります。
コロナ禍という特殊事情においては、特に今まで以上にグルタミンは外せないアミノ酸であるといえるでしょう。
グルタミンには機能がたくさんあるので、飲むタイミングはどの機能を発揮させたいかによります。例えば、成長ホルモンを出したい場合には就寝前、アンチカタボリックはトレーニング直後、血中アミノ酸濃度を高めて免疫を維持するためには就寝前と朝起きてすぐといった具合です。量に決まりはありませんが、1回5gくらいが目安で、トレーニングをしている人や減量期のビルダーさんは、1回に10g摂ってもいいでしょう。
ビギナーにこそ見直してほしい
ビタミン・ミネラルの重要性
もうひとつ、アミノ酸を摂る上で大事なのは、美容成分のイメージも強いビタミン・ミネラルです。栄養素としては基本的なものですが、ボディメイクの上級者たちも欲しがります。どんなに上質なプロテインやEAAを飲んでも、ビタミン・ミネラルがなければ代謝が進まず、役に立たないからです。真新しいものではありませんが、見直す価値があるといえます。
美白のためにビタミンC を摂る、貧血気味だからヘム鉄を飲むなど、明確な目的のためにピンポイントで摂取するのはいいことですが、その前段階で、マルチビタミンやマルチミネラルをセットで摂ることを、ビギナーの方にはお勧めします。ビタミンの主要な役割は補酵素ですが、ビタミンを補酵素として活性型にするには体内ではミネラルも必要になります。
そういった意味では、双方は相性がいいので、どちらもマルチになっているものをトータル的に摂るといいと思います。
これらは、野菜や豚肉、海藻など、本来は食事で摂るのが理想です。ですから、サプリメントの摂取タイミングは、食後がいいでしょう。ただし、一度に多く摂ってもあまり意味がないので、できれば朝晩や朝昼晩に分けて、多頻度で飲むようにします。
今回は、主にアミノ酸について紹介してきました。ほかにも、注目度が上がっているβアラニンやクレアチンといったアミノ酸(の一種)もあります。ただし、それらには栄養としての価値はなく、カフェインなどと同じで、特段摂らなくてもなんら健康的に生きてはいけます。しかし、この2つも面白い機能は備えていますから、サプリメントとしての優先順位は少し後ろの方で、きちんとトレーニングを覚えたり、ある程度の筋量を作ってから取り入れていけばいいと思います。必ずしも初心者向けではないので、今回紹介したBCAA、グルタミン、マルチビタミン&ミネラルを、スターターサプリメントとしてお勧めしておきます。
ぜひ、参考にしてみてください。
続けてお読みください。
▶筋トレ初心者が知っておきたい、プロテインの基本と、それ以上に重要な糖質【栄養のスペシャリストが解説】
監修:桑原弘樹
1961年4月6日生まれ 愛知県出身。立教大学卒業後、江崎グリコに入社。スポーツサプリメント事業を立ち上げ、スポーツフーズ営業部長などを歴任し、現在はアドバイザー。桑原塾を主宰し、100人以上のトップアスリートのコンディショニング指導も行っている。
執筆者:飯塚さき
1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスの記者として『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、スポーツ庁広報ウェブマガジン『Deportare』などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。