栄養とサプリメントのスペシャリスト・桑原弘樹氏に聞くビギナー向けサプリメント講座。最終回のテーマは、ずばり「減量」。自身のライフスタイルに合わせてサプリメントを選ぶことが重要であるが、その選択基準は何か。解説していただく。
取材・文:飯塚さき
脂肪がなくなるメカニズム
どのステップを意識するか
ダイエット系のサプリメントは、ドラッグストアなどにもたくさん置かれています。しかし、なかには薬機法を無視したり、混乱を招いたりするものがあるのも事実です。前提として、ダイエット系サプリメントは、「これを飲むだけで痩せる!」という、魔法の粉やカプセルではないということを頭に入れておいてください。
また、ダイエット系でも、いくつかのカテゴリーに分けられます。自分がどのステージを目指しているのか、理解した上で選ぶことが重要です。まずは、脂肪がなくなるメカニズムについて説明します。
最初のステージは「分解」です。体脂肪には、皮下脂肪と内臓脂肪、異所性脂肪に分けられます。皮下脂肪は一般的に健全な保管場所で、お腹周りなどにつくのが内臓脂肪、そして異所性脂肪とは溜めきれなくなった脂肪が脂肪肝のように、元来脂肪があってはならないところにつくものを指します。
銀行口座に例えると、貯めるための定期預金が脂肪で、使うための普通預金が糖質といったところでしょうか。脂肪はまさに蓄えであり、飢餓を乗り切るための大事な機能でした。しかし、飽食の時代がやってきて、昔のように蓄える必要がなくなりました。にもかかわらず、その機能があるため勝手に取り込まれてしまっています。だからこそ、最初のステージである「分解」のハードルが高いんです。
2つ目のステージは「運搬」。脂肪が分解されると、「脂肪酸」といって、エネルギーになりやすい形状に変わります。この脂肪酸をATPに変えるためのミトコンドリアという工場に運ぶ必要があります。糖質と比べると、脂肪酸は工場内まで運搬するのにも“許可証”が必要で、これもハードルがあります。
運搬を越えて、エネルギー生産工場に入ることができたら、次のステージは「燃焼」です。燃焼効率には個人差があって、脂肪がどんどん落ちる人は燃焼効率がいいと言えますが、効率の悪い人は、材料を送っても使ってもらえません。燃焼が止まると運搬が止まり、元の倉庫に戻ってしまいます。「燃焼効率」を上げることも、ひとつのハードルになります。
この3つのステップと合わせて、もうひとつ脂肪をなくす方法が「吸収阻害」です。口に入れたものを、そのまま腸から排出してしまえば、そもそも脂肪にならないというもの。手にしたお金を、銀行に預けないで捨ててしまうようなイメージです。大きくこの4つのカテゴリーに分けられるので、減量にあたって自分はどこを意識するか、次を参考に考えてほしいと思います。
脂肪はそもそも溜めるものなので、たくさん使う人は分解のハードルが下がります。つまり、日常的に身体を動かしているかどうかです。トレーニングをしているといっても、1日のうちのせいぜい2~3時間で、オフの日はゼロ。要は、トレーニング以外のライフスタイルが分解しやすいかどうかを左右します。
仕事がデスクワークであまり動かないのであれば、分解のハードルは下がりません。逆に、トレーニングは週1日でも、仕事で肉体労働をしている人は、分解しやすいはず。トレーニングよりも日常生活を見て、判断してください。
運搬は、これができないと脂肪はなくならないので、運搬機能は誰にでもついています。しかし、老化によって、体内で脂肪を運搬させるためのアミノ酸の合成能力が落ちるのです。いままでと同じ運動をしているのに脂肪が落ちないというのは、年齢のせい。その場合は、運搬の素材を取り入れましょう。
燃焼は、トレーニング内容によります。瞬発系のものだけだと、脂肪燃焼は進みにくいのですが、ランニングなどの有酸素運動をしている人は、燃焼のハードルが下がります。
最後に、吸収阻害は、余分なカロリーや栄養素を摂り過ぎているかどうか。例えば夜の付き合いが多い、寝る前にドカ食いをしてしまっているといった傾向がある人は、摂ったものを割り引いて排出してくれる吸収阻害系(ブロック系)のサプリメントが向いているでしょう。
こんな具合に、自分のライフスタイルに鑑みてサプリメントを選びます。売っているものも、よく見ると「分解・運搬系」「分解・燃焼系」などと分かれているはずです。ただし、どれも有効推奨量があるので、全部取り入れると値段が高くなります。自分がどこに一番注力したいか、考えて選ぶようにしましょう。
来週は「分解・運搬・燃焼に役立つサプリメント」をご紹介。
続けてお読みください。
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監修:桑原弘樹
1961年4月6日生まれ 愛知県出身。立教大学卒業後、江崎グリコに入社。スポーツサプリメント事業を立ち上げ、スポーツフーズ営業部長などを歴任し、現在はアドバイザー。桑原塾を主宰し、100人以上のトップアスリートのコンディショニング指導も行っている。
執筆者:飯塚さき
1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスの記者として『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、スポーツ庁広報ウェブマガジン『Deportare』などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。