栄養とサプリメントのスペシャリスト・桑原弘樹氏に聞くビギナー向けサプリメント講座。最終回のテーマは、ずばり「減量」。自身のライフスタイルに合わせてサプリメントを選ぶことが重要であるが、その選択基準は何か。解説していただく。
取材・文:飯塚さき
減量系サプリメントのどれを選べばいいのかを読む前に、脂肪がなくなるメカニズムを知ろう!
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分解・運搬・燃焼に役立つサプリメント
分解・運搬・燃焼、それぞれのステージで活躍するサプリメントを紹介します。4つのなかでなんといってもポイントなのは、分解です。分解はスタートラインなので、どんなにほかの機能が高くてもサイクルが回り出しません。逆に分解さえうまくいけば、ほかは比較的頑張れます。
分解の代表はカフェインです。カフェインは、アルカロイドと呼ばれる、窒素を含む天然由来の有機化合物です。分解は、脳内の覚醒系の物質であるアドレナリンやノルアドレナリンといった「カテコールアミン」からスタートします。β3受容体にカテコールアミンが入ると、分解のスイッチが入るのです。そこからいくつかの反応を繰り返して、最終的にホルモン感受性リパーゼが活性化すると、いよいよ脂肪が分解し始めるという仕組みです。
カフェインは、飲むと眠気が取れて活性します。アデノシンという疲労を伝える物質が、脳内で受容体に入るとスイッチが入って眠気や疲れを感じるのですが、カフェインとアデノシンの受容体の相性がよく、その受容体にカフェインが入ると、アデノシンが受容体にくっつけなくなります。
すると、疲労を伝えられないので、眠気が取れる。そしてアデノシンが効果を発揮できないということは、逆にノルアドレナリンが元気であるということ。つまり、脂肪の分解のスタートが入るので、カフェインが脂肪分解に一役買うのです。
ほかには、カテキン。遊離型のカテキンも、脂肪の分解を促進します。アドレナリンを分解する酵素をカテキンが阻害するためです。さらに、コレウスというシソ科のハーブがあります。実は、日本人は遺伝的にβ3受容体が少ないので、元来脂肪の分解が苦手であると言われています。コレウスの特徴は、β3受容体を介さずにその先のアデニル酸シクラーゼという酵素を活性化してくれるので、β3受容体が少ない日本人にも、コレウスは脂肪の分解に役立ちます。
次は、運搬です。先述の通り、脂肪はミトコンドリアへの“許可証”が必要で、それがL -カルニチンです。カルニチンは体内ではリジンとメチオニンという必須アミノ酸を材料として合成されていますので、以前はリジンやメチオニンを脂肪の運搬的な役割としてサプリメントとして売っていたことがありましたが、いまはカルニチンが食品扱いとなりサプリメントとして使えます。加齢と共に減っていくので、逆に若い人には比較的必要性が低いかもしれませんが、年を取ると飲まないと足りなくなります。
ただし、運搬は分解と燃焼の間なので、市販されているサプリメントには補助素材としてカルニチンが入っていることが多いです。その場合は、カルニチン以外の成分を見て、そのサプリメントが何かを判断してください。
最後は燃焼。ここで役立つのは、HCAです。東南アジアなどでは香辛料としても使われる、ガルシニアカンボジアという果物の皮のエキスです。ハイドロキシクエン酸の略で、クエン酸と構造がそっくりですが、HCAにクエン酸の効果はありません。ところが、身体の中の酵素は、この2つを似たようなものと勘違いするんです。
分解・運搬されてミトコンドリアに入ってきたものが、クエン酸回路に入ります。脂肪をエネルギーに変える第一工場です。糖はすぐ枯渇しますが、脂肪はたくさんあるので、いつまでも運ばれます。
すると、工場の生産能力を超えて、中心的な材料であるクエン酸が溢れ出ます。それが工場のキャパを越えた合図となり、一度“返品”ということで、また脂肪に戻ってしまいます。
溢れ出たクエン酸に反応して“返品”の流れにさせる酵素が、ATPクエン酸リアーゼです。ATPクエン酸リアーゼは、元来は溢れ出たクエン酸に反応するのですが、HCAを摂っておくと、クエン酸と構造が似ているために同様の反応をしてしまい、当のクエン酸は反応できなくなるため返品できなくなります。これが、脂肪の燃焼促進につながるHCAの仕組みです。
ほかには、CLA。リノール酸という油の一種なのですが通常のリノール酸とは少し構造違い、違う場所で二重結合しています。ミトコンドリアに入ってからのスピードを上げてくれるものです。
同様の働きをするもので、甘草というハーブのポリフェノールである、甘草グラブラポリフェノールもあります。このポリフェノールは脂肪合成の酵素を従来の1倍未満にして、逆に分解の酵素の活性を1倍以上にしてくれます。合成は弱く、分解は強くなるので、効果があるのです。
ブロック系サプリメントとその注意点
最後に、体内の吸収効率を落とす、ブロック系のサプリメントもあります。代表的なのは食物繊維。食物繊維は、人間の腸内の酵素では分解できません。牛や馬は、草しか食べないのにたくさん筋肉がありますが、これは、腸内にもっている細菌が違い、食物繊維を分解できるからです。人間は、食物繊維を分解できないがゆえに、入ってきたものとくっついて外に出そうとするか、体内に入っていくスピードを押さえる働きがあります。
「脂肪の分解を抑える」と謳う、トクホの黒烏龍茶やダイエットペプシは、難消化性デキストリンという、消化酵素で消化されにくい水溶性食物繊維が含まれています。摂った糖や脂肪の吸収を抑えてくれる、健全な吸収阻害系のものです。
脂質の吸収を抑えるのは、カニの甲羅から抽出される食物繊維であるキトサンや、ガレート型カテキンです。パッケージに書いてあったら、脂肪の吸収を抑えることを狙っているんだなと理解してください。
同じように、糖の吸収を抑えるものとして、白いんげん豆の成分があります。生で摂らないと成分が壊れてしまうのですが、生で食べるとお腹を壊すので、サプリメントとして摂取する意義があります。さらに、桑の葉や、ギムネマというハーブもブロック系といえます。
ブロック系サプリメントの注意点は、キャッチコピーの問題もありますが、「食べたものをなかったことにする」ものではないということです。食べたカロリーがすべてカットされることはないので、過大評価しないこと、頼りすぎないことが重要です。ブロック系サプリメント全般に言えることで、どうしても付き合いの食事会がある日や、我慢できない日に活用するのはいいけれど、脂質や糖質をまるごとカットしてくれるものではないという認識は大切です。
食べたいときに好きなものを食べられる。こんな贅沢なことは、人類史上ありません。私たちは、徳川家康よりいい暮らしをしているんです(笑)。健康のためのダイエットは大切ですし、競技に向けても減量は欠かせません。しかし食べられるという、この幸せはぜひ感じてほしいなと思っています。
監修:桑原弘樹
1961年4月6日生まれ 愛知県出身。立教大学卒業後、江崎グリコに入社。スポーツサプリメント事業を立ち上げ、スポーツフーズ営業部長などを歴任し、現在はアドバイザー。桑原塾を主宰し、100人以上のトップアスリートのコンディショニング指導も行っている。
執筆者:飯塚さき
1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーランスの記者として『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(報知新聞社)、『IRONMAN』(フィットネススポーツ)、スポーツ庁広報ウェブマガジン『Deportare』などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。