POFとは「ポジション・オブ・フレクション」のことで、1990年代に紹介され一気に広まっていったトレーニング法のことだ。あれからすでに30年近くが経過したが、POFの人気はいまだに衰えていない。POF法を考案したのはアイアンマンマガジンの元編集長だったスティーブ・ホルマンだ。このトレーニング法の最大の特徴は多角度からの刺激が対象筋に得られること、そして、それを最小限の種目で実現させることだ。つまり、とても効率がよく、エネルギーを無駄にしないトレーニング法なのである。このPOF法は一定のルールに則って種目を入れ替えたり、さまざまな高強度テクニックを盛り込んだり、自分流にアレンジすることもできる。
文:William Litz 翻訳:ゴンズプロダクション
POF法の基本を理解しよう
POF法の基本を解説しておきたい。POF法は「筋肉の屈曲の角度」に着目して考案されたトレーニング法だ。刺激を受ける筋肉は関節を支点にして動作を行うわけだが、スタートからフィニッシュまで動作すると、全可動域の中で対象筋はストレッチ→中間地点→収縮をすることになる。
このことは、どの種目でも同じなのだが、種目によって、ストレッチ地点で最も強い負荷がかかる種目、動作の中間地点で最も強い負荷がかかる種目、収縮地点で最も強い負荷がかかる種目と分類することができる。
もし、鍛える部位ごとに、この3つの地点で最大負荷がかかる種目を選択すれば、その部位のワークアウトは3種目を行うだけで発達のための刺激を十分に得られるということになる。
しかし、実際のところトレーニーの多くは対象部位に5〜6種目も行っている。しかも、選ぶ基準は、自分が好きな種目だったり、あるいは収縮時に負荷がかかる種目ばかりを選んでいたりして、種目の選択に偏りがあることが多いのだ。これでは筋発達のための刺激を十分に得ることはできない。
筋発達のためには、あらゆる角度からの刺激が必要ということは昔から言われてきたことで、POF法はそのために考え出されたトレーニング法なのである。
もちろん、たくさんの種目を片っ端から行えば、あらゆる角度からの刺激という条件は満たされる。しかし、それでは対象筋をオーバートレーニングに陥れることになる。筋発達を目指すなら、そういった事態はできるだけ避けたいはずだ。
3つの地点を理解する
POF法で定めている「種目の3地点」とは動作の中間地点、ストレッチ地点、収縮地点だ。そして、最も強い負荷が得られる地点は種目によって変わってくる。部位ごとに3地点で最大負荷がかかる種目を選択すれば、3種目を行うだけで発達反応を起こすための条件を満たすことができるのだ。まさしく、時間もエネルギーも無駄にしないトレーニング法である。効率のいいワークアウトを行った後は、十分な時間をかけて疲労回復に努めればいいのである。
POF法は多くのトップボディビルダーたちに採用されてきたが、アーノルド・シュワルツェネッガーも、POF法とよく似た方法でワークアウトを行っていた。
スティーブ・ホルマンが考案したP O F 法が広まったのは1990年代であり、その頃すでにアーノルドは現役を引退していたが、彼が全盛期だった頃、POF法の原型ともいえる内容のワークアウトを行っていたのである。トレーニング法として確立していなかった時代、アーノルドは直感的に、効率が良くて大きな効果をもたらすそのやり方を思いついたに違いない。彼はいつだって時代の最先端を行く人物なのである。
ワークアウトでの実践
POF法の考え方はとても単純で分かりやすい。ただ、背中のような複雑な部位にPOF法を当てはめようとすると、どうしても混乱してしまうという人が少なくないのだ。
今回は、そんな人たちにも理解してもらえるように背中のPOFワークアウトを紹介していきたい。トレーニング法の考え方が明確になれば、目的も明確にしやすい。目的が明らかになれば、対象部位に集中して刺激を送り込みやすくなり、よりPOF法の効果を引き出しやすいはずだ。
POF法にはさまざまなバリエーションがあるが、ここで紹介するのはあくまでも基本的なやり方だ。まず、複雑な構造を持つ背中を大きく2つに分け、広背筋と中背部の2つのワークアウトをそれぞれ行うようにする。どちらを先に行うかはトレーニーの判断でかまわないが、例えば広背筋が弱いなら、広背筋のワークアウトを先に行うのもいいだろう。
★広背筋のPOFワークアウト
①ベントオーバーロウイング[ミッドレンジ種目]8レップ×2セット
②ダンベルプルオーバー[ストレッチ種目]10レップ×2セット
③スティフアーム・プルダウン[コントラクト種目]10レップ×2セット
★中背部のPOFワークアウト
①ワンハンド・ロウイング[ミッドレンジ種目]10レップ×1、2セット
②ケーブルロウイング[ストレッチ]8〜10レップ×2セット
③ローププルオーバー[コントラクト]8〜10レップ×2セット
ところで、デッドリフトが含まれていないことに違和感がある人もいるだろう。確かにそうだ。背中のワークアウトなのにデッドリフトがないだなんて、何かの間違いではないか? もちろん間違いではない。
デッドリフトは下半身のワークアウトに組み込まれることが多いが、ボトムポジションの可動域を制限すると、最初から最後まで背に行うのもいいだろう。
★広背筋のPOFワークアウト
①ベントオーバーロウイング[ミッドレンジ種目]8レップ×2セット
②ダンベルプルオーバー[ストレッチ種目]10レップ×2セット
③スティフアーム・プルダウン[コントラクト種目]10レップ×2セット
★中背部のPOFワークアウト
①ワンハンド・ロウイング[ミッドレンジ種目]
10レップ×1、2セット中に強い刺激をもたらすことができる。特に高重量を使えば背中の厚み作りに貢献してくれる種目だ。さらに僧帽筋の発達にもプラスになる。
ただし、僧帽筋の発達をメインの目的としてデッドリフトを行うなら、握力が疲労していない状態で行うのがベストだ。例えば、高重量を使うことが多い背中のワークアウトより、肩のワークアウトに組み込んだほうが効果的なデッドリフトが行えるはずだ。
デッドリフトは下半身の種目としても行えるし、肩のワークアウトに組み込むこともできる。つまり非常に柔軟な種目ということだ。そのため、無理に背中のワークアウトに組み込む必要はないので、今回のPOFワークアウトではあえて省くことにした。
もし、どうしても背中のワークアウトにデッドリフトを入れたいというのであれば、ワークアウトの最後に2〜3セットを行うといいだろう。デッドリフトを最初の種目として行うには、あまりにもエネルギーの消耗が激しすぎる。
背中のためにデッドリフトを行うのであれば、パワーラックのストッパーをスネの中央あたりにセットし、その位置をボトムポジションとして動作を行うようにするといいだろう。
全身の分割法
もし背中が弱点であるなら、期間を限定して以下のようなスケジュールで全身を分割してみよう。背中を克服するために、できる限りのエネルギーを注ぎたい場合にはとても有効なので参考にしてほしい。
●月曜日:背中、上腕二頭筋
●火曜日:胸、肩、上腕三頭筋
●水曜日:休日
●木曜日:脚
●金曜日:パンプ重視のワークアウト(上半身)
●土曜日:パンプ重視のワークアウト(下半身)
●日曜日:休日
月曜日は、その前日が休養日なので心身ともに新鮮な状態のはずだ。だからこそ、この日に背中をトレーニングしたい。また、見てのとおり月、火、木曜日の3日間で全身を1回ずつワークアウトするが、金曜日と土曜日はパンプ重視のワークアウトになっている。
このパンプ重視のワークアウトは、あくまでも補助的なものであり、筋量や筋力を伸ばすためのものではない。すでに週の前半で刺激した部位の疲労回復を促すことが目的なので、血流量をできるだけ増やし、栄養をしっかり補給し、疲労物質を確実に押し流すためのものだ。
パンプ重視のワークアウトでは、対象となる部位を追い込むことはしない。しかし、だからといって軽重量にこだわる必要はない。追い込まないことだけを守ってほしい。
また、パンプ重視のワークアウトは上半身と下半身に分けてあるが、どうしても週末を休日にしたいなら、金曜日に全身のパンプ重視のワークアウトを行ってもいいだろう。その場合、運動量が多くなりすぎないように、各部位に選択する種目は1種目に限定しよう。もちろん、ここで選択する種目はPOF法に従う必要はない。
パンプ重視のワークアウトの目的は疲労回復を促すためだ。上部胸筋が弱いならインクラインダンベルプレスを選択すればいいし、大腿四頭筋の大腿直筋を強調したいならフロントスクワットを選択すればいい。当たり前のことだが、種目の選択にもきちんとした意味があることを覚えておいていただきたい。
パンプ重視のワークアウトでは、種目間やセット間の休憩時間は長く取らないようにしよう。できるだけ素早く次のセット、次の種目を開始することで、心肺機能を高める効果も期待できる。
各部位に行うのは2セットを限度とし、それ以上行う必要はない。ただし、背中の弱点克服を目的としている期間中は、背中には4セットまで行ってかまわない。
また、種目数が多くなりすぎるようなら腕の種目は省いてもいい。腕は背中や胸、肩などの種目でも十分に血流量が増すので、パンプ重視のワークアウトでは、小筋群である腕のような部位をダイレクトに刺激する必要はないのである。
背中のためのパンプ重視のワークアウトでは、広背筋のための1種目、中背部のための1種目を選択し、それぞれに2セットずつ行うようにしてみよう。
例えば広背筋にはワイドグリップ・チンアップ、中背部にはロウイング系の種目を選択するといいだろう。この2種目は、それぞれ2セットずつを行ってもいいし、1セットずつ連続して行うスーパーセット法を採用するのもいいだろう。
種目の選択肢としては、ラットプルダウンとTバーロウイング、チンニングとケーブルロウイング、リバースグリップ・プルダウンとインクラインベンチロウイングなどがある。
繰り返し述べるが、パンプ重視のワークアウトでは、決して筋肉を追い込まないこと。血流量を増やし、疲労回復を促すことが目的であることを忘れないようにしてほしい。
最後に
体重が増えにくいいわゆるハードゲイナーの場合、各部位を週に1回だけワークアウトするより、週2回に増やしたほうが効果が上がりやすいことが多いようだ。このことは一部のトレーニーの意見ではなく、多くの人が実感していることだ。
冒頭で紹介したPOF法の考案者であるスティーブ・ホルマンによると、ほとんどのトレーニーは、ワークアウトを終えてから4日後には疲労を回復している感覚を得ていると述べている。そうだとすれば、各部位を週1回だけ刺激して7日間休んでも問題はないだろう。しかし、本来は4日間で疲労回復できるのに7日も休んでしまうことで、逆に筋発達が起きにくくなることも考えられるのではないだろうか。
そのため、先ほど提案した全身の分割スケジュールでは、ダイレクトに対象とする筋肉を刺激するのを週の前半に1回、そしてパンプ重視のワークアウトで、全身の各部位をもう一度刺激するようにしているのだ。2度目のワークアウトでは対象筋を追い込まないが、次週に向けてしっかり疲労回復させることを目的にして、筋中の血流量を増やしていこう。
ちなみに、スティーブ・ホルマンも各部位を週1回しかワークアウトしない時期がある。それは、目的部位へのダメージを高めたい場合だ。
そのために、ネガティブレップ法などの高強度トレーニングを採用するわけだが、そのようなテクニックを盛り込んだPOF法を行う期間中は、パンプ重視のワークアウトは行わず、厳密に週1回だけしか各部位を刺激しないスケジュールを組むのである。
実際、これまでの研究でも、ネガティブ法は対象とする筋肉の筋線維に猛烈なダメージをもたらし、その疲労回復には少なくとも7日間を必要とすることが示されている。
また、中枢神経もかなり疲労するので、高強度テクニックを盛り込んだワークアウトを行うときは、あらかじめ休日をしっかり取るようなスケジュールを組むといいだろう。そうしないと筋肉にとってはマイナスの結果をもたらしてしまうことになるので、十分に注意しよう。
続けてお読みください。
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執筆者:William Litz
カナダのウィニペグで活動する有資格のパーソナルトレーナー。過去10年以上にわたり、フィットネス系雑誌やオンライン雑誌にトレーニング関連の記事を執筆してきた。ボディビルに精通しており、熱狂的なボディビルファンでもある。