「昨年のゴールドジムJAPAN CUPに出て本当に良かったです」と嶋田慶太選手は声を弾ませた。そこで見えた課題点をいかにして克服したのか。その改善策を聞いた。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:上原秀樹
――昨年はジャパンカップに出場され、試合後に、塩分を控えすぎたため水分が抜けて身体が張らなかったとおっしゃっていました。
嶋田 絞り切った状態で実験してみたかったので、ジャパンカップ終了後、その1週間後にまた大会があると想定して、塩分と水分の調整をやってみました。また、ありがたいことに今年はゲストポーズに多く呼んでいただき、その都度実験してみたのですが、仕上がっていない身体に塩分を入れたのでむくんだだけで終わったこともありました(苦笑)。ただ、最終調整に関してはゲストポーズを重ねていく中でも掴めたものもあったので、そうした経験を日本クラス別で生かして、日本選手権につなげていきたいと思っています。
――昨年と今年はマッスルゲートで審査員を務めました。
嶋田 審査員の目線で見る機会をいただいて、自分のステージングにも生かせる発見がありました。最も感じたのは、例えば12人が決勝に残り、ファーストコールやセカンドコールなどの比較審査で、番号を呼ばれた4人の選手がステージ前方に出たとします。残りの8人はステージ後方に待機しているのですが、その4人を指名していない審査員は、おそらく後ろの8人を見ていると思うんです。そこで脱力している選手は、良くない意味で目についてしまいます。
――後ろで待機しているとき、嶋田選手は?
嶋田 僕は脱力しないようにはしていたんですが、やはり疲れてしまうので、番号を呼ばれて前に出たときに全力を出せるよう、待機している際は余力を残しておきたいという気持ちがありました。
――でも、実際に力を抜いて立っていると……。
嶋田 審査員からは、良くは見えないですよね。つまり、僅差で争っているときなど、一瞬でも力を抜いてしまったら不利になるということです。入場から退場まで、ステージに出ているときは常に見られているという感覚を持っておいたほうがいいということが分かりました。
――トレーニング面での変化についてはいかがでしょう。今年4月号でインタビューさせていただい際には、バックポーズの背中の厚みを課題にされていました。その改善のために、以前は敬遠していた腹圧もかけるようになったと。
嶋田 腹圧に関しては、身体の中から圧をかけるというよりも、肋骨を閉めた状態で、身体の外側からお腹を締める圧のかけ方をしています。これまではウエストを太くしたくなかったので腹圧をかけないようにしていたんですが、するとどうしても背中の種目で引いたときに腰が反ってしまうんです。それでは背中の筋肉が収縮できないので、厚みは出てきません。お腹を締めて腰が反らないフォームを作って、そこから肘を深く引き込む。そうすると背中の筋肉の最大収縮が起きるので、背中の凹凸感や厚みがついてきます。昨年に比べると背中は改善できたと思います。
――種目で変化させた部分はありますか。
嶋田 昨年やっていたベントオーバーロウイングを外して、マシンのワンハンドロウイングに切り替えました。そのほうがより深く後ろに肘を引けるからです。
――ジャパンカップ後からデッドリフトも取り入れるようになったとおっしゃっていました。
嶋田 デッドリフトは今も継続していますが、パワーラックの一番下から引いていたのを膝から上のトップサイドに変えました。僕はルーティンの組み方が「脚」「オフ」「胸」「背中」……という流れなんです。脚のトレーニングの中2日後に背中がくるので、お尻とハムの筋肉痛がまだ残っている状態で背中のトレーニングを行うことになります。そこで下から引くデッドリフトをすると、本来は背中を使いたいのに、筋肉痛が残っている下半身に意識がいってしまうんです。トップサイドに変えたら、背中への刺激の入り方が明らかに変わりました。
――スクワットは1年ほど前から15レップでインターバルは1分、これを10セット行うジャーマンボリュームトレーニング(GVT)を実施していました。
嶋田 今もそのやり方を継続しています。昨年は60㎏で組んでいましたが、1年経ってやっと70㎏でできるようになりました(苦笑)。重量を扱うスクワットは全く効かなかったんですが、このやり方は効きがよくて、楽しくて仕方がないです。脚がパンパンに張って、翌日は激しい筋肉痛に見舞われます。これが楽しくて。ただ、精神的にはキツいです。
――膝を伸ばし切らないノンロックでの15レップでした。
嶋田 普通に6から8レップを5セットやったほうが楽なんじゃないかと思い、重いのを担いでやってはみたものの、やはり効きが悪い……。そういうことをこの1年で2回ほど繰り返しました。精神的にはキツくても、結局は今のやり方に戻って、それを継続しているので、自分に合ったトレーニング方法なのかなと思っています。同じフォーム、同じ軌道、同じスピード、同じ刺激の入り方で60㎏から70㎏ に重量を伸ばせたので、そこは成長したと思います。
――その10㎏分の成長をどういったところで感じますか。
嶋田 ポーズを取ったときに脚に力が入る感覚があるんです。これは今までにはないものでした。脚には「なんとなく力を入れている」といった程度で、ガチッと固めているわけではありませんでした。力を入れる感覚が、GVTをやることで掴めるようになりました。
――2014年のデビュー当時から脚は課題にされていました。
嶋田 これは今でも覚えているんですが、デビュー当時、ポージングの練習をしているときに、(コーチに)「脚に力を入れて」と言われたことがあるんです。精一杯の力を入れているつもりだったんですが、客観的に見たら全く力が入ってなかった。脚の神経が全く使えていなかったんだと思います。
――では最後の質問です。今年の日本選手権でテーマにしていることはなんでしょうか?
嶋田 毎回そうなんですが、「仕上げる」ことです。自分の長所を生かすには仕上げないことには闘えません。もちろんバルクをつけていくことを目標にしていますが1年間で急激に筋肉が大きくなることはありません。順位についても、当然19年よりも上の順位にいきたいとは思っていますが、「〇位以内」という明確なものはありません。今の自分の身体をしっかりと仕上げて、それがどう評価されるか。今の自分のポテンシャルを100%生かして日本選手権に臨みたいと思っています。