トレーニング

鈴木雅が日本チャンピオンに初めてなったとき語ったこと

IM 日本選手権で優勝されましたがいかがですか?
鈴木 もちろんとてもうれしいです。自分のターニングポイントはボディビルを本格的にはじめた2年後、2005年にミスター東京になれたときですが、そこでボディビルダーとしての位置づけをすることができました。
IM 具体的にいうとどういうことでしょうか?
鈴木 ミスター東京をとったということで周囲の見方がかわってきたと感じました。それまでは身体を大きくすることがメインになっていましたが、周囲の変化を受けて結果をだすという覚悟ができてきましたね、ミスター東京になったことが始まりであり、ようやくここまでたどり着いたのだと思っています。しかし、自分が納得する身体、完成形というのはまだ少し先にあり、それを実現する前に優勝という栄冠をいただけて、とまどいというか少し不思議な感覚もあります。
IM 覚悟が出来たことでプレッシャーはありませんでしたか。
鈴木 プレッシャーや重圧がまったく無いと いうわけではありませんが、プレッシャーや重圧と戦うというか、乗り越えるというので はなく、プレッシャーがあっても逃げないということだと思います。自分の立場とシッカリ正面から向き合うことで、プレッシャー を乗り越えられると思います。少なくとも私はそうしてきました。
IM 今度は目標とされる側になりますね。
鈴木 イメージがつきませんね。これからも、自分がやるべきことをやるだけ。下から追われていることを考えても仕方ありませんし、自分の体で勝負するわけですから、ト レーニングに励むのみです。ただ、肉体的な部分だけでなく、このポジションにいてふさわしい人間でありたいと思います。
IM 理想とするボディビルダーはいますか?
鈴木 野性的な体になりたいと思ったことはありますが、具体的な理想とする人は特にいません。突き詰めて考えると、やっぱり自分は自己鍛錬が好きなんですね。
IM 鈴木さんは“すごい努力を重ねて今の身体を作り上げた”と聞きますがいかがなんですか?
鈴木 そのように言っていただいているのを知らないわけではありませんが、ものすごく努力をしたとは感じていませんし、努力だけでチャンピオンになれたとも思ってはいません。コンテストでの勝利も価値のあることなんですが、私は自分の身体を鍛え上げたいという欲求の方が強いように思います。
IM きっとそれが鈴木さんの才能なんですね。ちなみにトレーニングのコツはなんだとお考えですか?
鈴木 コツといえるかどうかは別ですが、やっぱり何を目的としてトレーニングをしているのか、どこに効かせているのかをしっかり考えること。解剖学ですよね。身体がどういう向きで活動しているのかというのを理解し、そのうえで追い込む。それが一般の人とボディビルダーの違いであり、ボディビルの醍醐味ではないでしょうか。なかにはキツイ種目というのは、ある程度の結果が出るということが分かっているものだから、結果を出すためなら避けてはいけないと思っています。
IM そういったトレーニング姿勢が“すごい努力をしている”というイメージにつながっているんですね。
鈴木 そうかもしれませんが、トップにいる人たちはキツい種目を避けませんし、それを苦痛とは思わずにやっていると思います。そういった意味で私だけでなくトップビルダーは、すごい努力をしているということになるのかもしれません。
IM そして鈴木さんの場合は、理論的に考えてトレーニングしているということですね。
鈴木 そうですね。ただ、感覚的な部分も重要だと考えています。理論だけでやろうとすると、なかなか追い込めなかったりするんですよ。変にサプリメントに頼ってしまったりして。理論と感覚、療法のバランスが大切なのだと思います。また、ボディビルは天性の才能よりも、どれだけ考えてトレーニングしてこれたかが大事だと思います。まさに僕がそうなんです。
IM 外から見るとすごくハードであっても本人はそうとらえていないということですね。食事の方はどうですか?
鈴木 昔は甘いものが食べたくなる衝動がありましたけど、今はそんな欲求もなくなりました。いいものを摂り、体重を増やす時期には量を多めにしています。今はそこまで無理をしていませんが、トレーニングをはじめた頃は炭水化物を多く摂って体を大きくしようとしましたね。お米は8合とか食べていました。
IM ゴールドジムでトレーナーとして働いていらっしゃいますね。
鈴木 はい。ボディビルは趣味のようなものですが、仕事が趣味に生き、その逆もあるという恵まれた環境ですね。また、ボディビルで追及したアイデアや理論を活用し、一般の方の身体づくりをサポートできるのは、とてもうれしく感じています。
IM 一般の人と競技者としてのボディビルダーのトレーニングはどう違いますか?
鈴木 強弱や目的が異なるでしょうが、身体を変えていくということは基本的に同じですね。問題になるのは、例えば高齢者であればなるべく心肺への負担をかけないようにして、効率よくインナーマッスルを鍛えるなど人に合わせてどのような種目を行うのか。これも結局はバリエーションの違いであって、基本的には同じ話です。そしてトレーニングは健康的な生活を過ごすためにはとても重要なことであり、もっと普及していってほしいと考えています。
IM そうですね。ボディビルの認知や理解も深まりますね。
鈴木 それに僕らのようなものからのアプローチも必要でしょう。ナルシストチックだとか怖いとか、いまだにボディビルに偏見を持つ人もいますけど、まずはこちらから歩み寄りを進めていかなくてはいけないと思います。そして、自分の健康や身体作りに興味を持ち、周りのボディビルダーから気軽にアドバイスを受けようとする雰囲気がもっと生まれればいいですね。身体作りをしていることに、一般人もボディビルダーも違いはありませんから。
IM これからの目標や展望はありますか?
鈴木 コンテストの優勝など、称号やポジションの目標は特にありません。それよりも肉体と同時に精神を鍛え、品格や風格を備え人間として大きく成長していきたいですね。自分が成長できてこそ、それ相応の結果がついてくると考えています。
IM これからの活躍を期待しています。ありがとうございました。

鈴木雅(すずき・まさし)
1980年12月4日生まれ。福島県出身。
身長167cm 体重80kg ~ 83kg。株式会社THINK フィットネス勤務。ゴールドジム事業部、トレーニング研究所所長。2004 年にボディビルコンテストに初出場。翌2005 年、デビュー2年目にして東京選手権大会で優勝。2009年ワールドゲームズボディビル80㎏級3位。2010 年から日本選手権で優勝を重ね、2018 年に9 連覇を達成。2016年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80㎏級、世界選手権80㎏級と2つの世界大会でも優勝を果たした。2020年6月からDMM オンラインサロン“ 鈴木雅塾” を開講した。

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