ケガを予防することは、特に中高年のトレーニーなら最優先すべきことである。疲労回復に努め、高頻度のワークアウトや、あまりに強度を高めた内容でのワークアウトは控えるべきだが、基本的な予防策があるので、すでに理解しているという人でも改めて以下を確認しておくといいだろう。
文:Brett Osborn, DO, FAANS, CSCS, & Jay Campbell
翻訳:ゴンズプロダクション
適切なウォームアップ
ウォームアップがケガの予防になるなんてことは誰もが知っていることだ。トレーニングを始めたばかりの初級者だったころから言われてきたことであり、ワークアウトを行う前には必ずウォームアップを行っているという人がほとんどだ。それでも、加齢すればするほど関節の動きを滑らかにするための関節液や滑液がつくられにくくなる。ウォームアップを行うことで滑液の製造が刺激を受けるわけで、より念入りにウォームアップを行うことは中高年の関節を保護するために有用になってくるのだ。このことは、対象筋に送り込む血流量を増やすことにおいても同様だ。昔と同じようなウォームアップでは、対象筋への血流量を増加させ、その部位を十分に温めることはできない。そのため、中高年トレーニーが行うべきウォームアップは念入りに、丹念に行われるべきであり、簡単なウォームアップで済ませてはいけないのだ。ちなみに、プロアスリートたちは試合前のウォームアップに30~45分もの時間をかけるのだそうだ。もちろんこれは感覚的に行われていることではない。プロアスリートが行う運動は、ウォームアップも含めて、科学的にその効果が実証されていることがほとんどなのである。
適切なクールダウン
ウオームアップと同じように、中高年トレーニーはクールダウンにも十分な配慮が必要だ。ワークアウトを終えた直後、ジム内を歩いたり、5~10分程度の低強度のトレッドミルを行ったりするといい。また、クールダウンの最中はできるだけゆっくりと深呼吸を繰り返し、筋中に蓄積した代謝老廃物を除去するように努めよう。
適切なテクニック
複数の種目を、次々と速いペースで行うようなトレーニングの仕方は、ケガの発症率を約50%も高 めることになると『アメリカン・ジャーナル・オブ・スポーツメディスン』誌に記載されていた。それは、速いペースで種目を繰り返すとフォームが崩れやすくなり、ウエイトが正しい軌道から外れてしまうからだ。つまり、テクニックの乱れがケガをする確率を高めてしまうのである。ワークアウトにストップウオッチを導入した結果、テクニック重視の傾向が弱められてしまう。やがてトレーニーのケガが頻発するようになり、整形外科医のお世話にならなければいけなくなるのだ。日常生活を快活に過ごすことを目的にトレーニングをしている中高年は多い。それなのに、医者にかからなければならない事態に陥るとは皮肉な話である。そのような事態を避けるには、選択した全ての種目を正しく行うことである。正しいテクニックをしっかり理解し、マスターすること。テクニックを完璧に身につけること。特にフリーウエイトを使った種目、多関節種目、体内のアナボリズムを刺激するようなスクワット、ベンチプレス、デッドリフト、オーバーヘッドプレス、プルアップなどの種目は、ウエイトの正しい軌道を確実に覚えることが重要になる。人によってはオリンピックリフティング種目にも挑戦したいという人もいるだろう。その場合、必ずオリンピックリフティングの専門家の指導を仰ぎ、時間をかけて正しい知識を得てマスターしていくようにしよう。何度も繰り返すが、ケガの予防には正しいやり方を確実に学び、身につける必要がある。そうして得た筋力や身体能力は、今後、長きにわたり私たちの動作に役立つことになる。自己流のやり方や、無謀な方法で結果が得られたとしても、それは一時的なものであることが多く、この先、それがとんでもないツケとなって腰や肩、膝に痛みをもたらすことにもなるのだ。
補助的な種目
高重量のベンチプレスを行うと、必ず肩関節に痛みが起きるという人はいるだろうか。あるいは、デッドリフト後に骨盤の中にある仙骨と腸骨の間の仙腸関節に痛みが起きるという人はいるだろうか。このような部位の痛みは、主に筋肉同士のアンバランスが原因となっていることが多い。例えば高重量のベンチプレスでは、前部三角筋も多分に刺激を受ける。しかし、三角筋後部を日頃から鍛えていないと、三角筋の前と後ろでアンバランスが生じることとなり、運動を終えた後で肩関節が不自然な角度に引っ張られ、痛みを起こしてしまうこともある。あるいは、肩関節を保護しているローテーターカフにアンバランスが起きている可能性もある。ローテーターカフは一つの筋肉の塊ではなく、棘きょく上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの小さな筋肉で構成されている。これらの筋肉のバランスが取れていれば肩関節は安定し、ベンチプレスでウエイトを上げ下ろししたときに上腕骨が肩関節内で理想的な動きをすることができる。しかし、筋力のアンバランスが起きていれば、ウエイトの上げ下ろしのたびに、肩関節内で腱けんが挟まれたりして痛みを引き起こすことになるのだ。デッドリフト後に起きる腰の痛みは、アダクターとアブダクター(内転筋と外転筋)のアンバランスが原因かもしれない。アダクターマシンなどは女性がヒップアップや下半身のシェイプアップのために使うものだと見向きもしなかった男性トレーニーは、これからは内転筋と外転筋のバランスを整える目的で、そういったマシンの活用も検討していいかもしれない。また、腰椎と骨盤をつないでいる腰方形筋は、姿勢を保ち、安定させる上でとても重要な腰の筋肉の一つだが、この筋肉にもアンバランスが起きていれば、デッドリフト後に腰の痛みが起きる可能性が高まることになる。このように、表面からは見えない隠れた筋肉が、日頃から刺激を受けずに未発達である場合、筋力のアンバランスが起きるようになる。それが痛みの原因になっているケースは少なくないので、プログラムを見直し、見えない小さな筋肉にも刺激を与えるような種目を組み込んでみてはどうだろうか。そのような筋肉は力も弱いため、軽い重量でハイレップスのトレーニングを行うようにするといいだろう。なお、表面からは見えない筋肉のための種目については、フレドリック・ドラヴィエ著の『ストレングス・トレーニング・アナトミー・ワークアウトⅡ』が参考になる(注:ネット検索をする場合、著者名Frederic Delavierで調べると、日本で取り扱いのあるショップを調べられます)。
生理組織へのケア
疲労した筋肉に自分でマッサージを加えたり、ローラーパッドを使ったり、あるいは電気刺激の機械を使うなどのケアをしている人は多い。もちろん、専門的にソフトティッシュ(軟組織)を圧迫するセラピーを定期的に受けているという人もいるだろうが、いずれの道具や方法を使ったマッサージも、その目的は共通している。すなわち、蓄積した疲労物質を強制的に除去し、有毒性のある物質を組織から押し出すことで疲労回復や傷の修復を促したり、可動域を広げたり、ストレスを軽減したりして、筋発達のために役立てることにあるのだ。どの方法を選択するかはその人次第だ。そして、どれを選んでも生理組織のケアにつながることであり、ケガの予防につなげることができる。