皆さんはコーチや先輩たちから、自分の体が発する声に耳を傾けろと言われたことはないだろうか。このアドバイスは実に正しい。なぜなら、私たちの体は限界に近づくとさまざまな方法で合図を出してくるからだ。それらの合図をきちんと感じ取って対処すればいいのだが、多くの場合、合図を見落としたり無視してしまったりして、体が悲鳴を上げている状況をそのまま放置してしまっているのだ。
文:Sarah L. Chadwell, NASM-CPT
翻訳:ゴンズプロダクション
本格的なオーバートレーニングに陥らないようにするためには、体が発する声、すなわち悲鳴にも似た合図に敏感になり、無視したり見落としたりすることなく、すぐに対処しなければならない。その合図とは具体的にどのようなものなのか。オーバートレーニングの前兆とも言える12の症状について解説していこう。
その1: 持続する筋肉痛とこわばり
加齢していけば、私たちはいつか四肢の動きに不自由を感じ、手すりがなければ、安全に階段を昇り降りしたり、風呂に入ったり、トイレで用を足すことができなくなる日がくるかもしれない。今はそんな不自由さは想像できないかもしれないが、例えば高強度の脚のワークアウトを行ったことがある人なら、ワークアウトの翌日、ベッドから起き上がるのも苦痛であるという経験をしているはずだ。そんな状態が、例えば3日間も続いたらどうだろうか。強烈な筋肉痛と怠さ、こわばりに見舞われ、何をするにも辛くてたまらないはずだ。この状態は体が悲鳴を上げている証拠である。お願いだから休ませて! と合図しているのだ。このような状態になったら、それはオーバートレーニングの前兆である。
その2: 持続する疲労感
心身ともに疲労困憊の状態に陥ると、体が重く感じ、頭がすっきりせず、思考能力が低下していることを実感する。これは本格的なオーバートレーニングに陥る前兆である。この時点ですぐにトレーニングスケジュールを見直して、オフを取り、体に蓄積している疲労を回復させなければならない。実際、このタイミングで休みを入れると、本格的なオーバートレーニングに陥る手前で状況をプラスに転じることができるのだ。実は、このタイミングを見逃してしまうケースはよく見られるのだ。このタイミングを見逃すと、気づいたときには手遅れで、疲労回復のためのオフ日を何日入れても状況が改善しなかったりする。もちろん、そのような状態でトレーニングを行っても効果は上がらないし、結果も得られない。疲労感が持続していたら迷わずオフ日を数日間入れて、手遅れになる前に状況を改善しよう。
その3:競技能力の低下や、ワークアウトが最後までできなくなる
一生懸命にワークアウトを行っているのに結果が上がらない。それどころか使用重量はむしろ落ちていて、ひどいときはワークアウトを最後まで行えなくなる。これもオーバートレーニングの症状である。この状態までになるとオーバートレーニングの領域に足を踏み入れている可能性が高い。すぐにオフを取り、疲労回復を最優先したスケジュールに組み直そう。
その4: 感染症にかかりやすくなる
体にストレスがかかり、その状態が長く続くと、実は免疫系が大きな負担を受け正常に機能しなくなる可能性が高まってしまう。免疫機能が低下すると風邪やその他の感染症にかかりやすくなり、病気になりやすい状態になってしまう。ちょっとしたことですぐに風邪を引くようになったという人は、それはオーバートレーニングの前兆かもしれない。ワークアウトをしばらくオフにし、免疫機能を高めるように心がけよう。
その5: ケガをしたり関節痛が起きやすくなる
膝、肩、腰など、体のさまざまな関節に痛みや怠さを感じるようになったら、それはオーバートレーニングの前兆かもしれない。もしその状態が長く続いているのであれば放置しておかないほうが賢明だ。研究によると、過剰なトレーニングは筋肉だけでなく結合組織にも大きな負担となり、結合組織の疲労が慢性的に続くと、炎症が長引くことにもなりかねないらしい。本格的なオーバートレーニングになる前に、少しでも関節に違和感を感じるようになったら躊躇せずにワークアウトを休もう。2週間以上も痛みや違和感が緩和しないという場合は、間違いなくオーバートレーニングの一歩手前であると言えるので、心当たりがある人は確実にワークアウトをオフにして、問題の改善に努めよう。
その6: 眠れなくなる
高強度でワークアウトを行い、筋肉も精神も限界まで追い込んだ。これだけ完全な疲労困憊状態なら今夜はぐっすり眠れるに違いない。そう思ってベッドに入ったのに、全く眠くない! こんな経験をしたことがある人は多いはずだ。睡眠が筋発達にとても重要であることは誰もが理解している。なぜなら、睡眠中、体は傷ついた筋肉を修復して発達反応を活発にするからだ。この間に大量の成長ホルモンがつくり出されて放出されるのだが、眠りが深ければ深いほどその効率は高まる。ところが、体が疲れすぎていてオーバートレーニングの兆候が見られるとき、私たちは眠れなくなったりすることがある。ストレスホルモンの過剰分泌がその理由のひとつに挙げられるわけだが、それが良質の睡眠を妨害し、良質の睡眠が取れないから成長ホルモンの分泌が抑制されてしまう。つまり、不眠によって発達反応が起きにくい状態になってしまっているわけだ。しっかり眠るためには、しばらくトレーニングを軽度な内容に組み直すか、思い切ってオフにする期間を設けてみよう。眠れるようになれば疲労回復は進むが、眠れない状態が続けばどんどんオーバートレーニングの深みにはまっていくことになる。
その7: 労作性頭痛
運動することによって起きる頭痛を労作性頭痛と呼ぶ。多くの場合、労作性頭痛は運動をやめると緩和するので心配ないと思うかもしれないが、人によっては運動を終えても頭痛が続き、数日間もこれが続くという気の毒な人たちもいるのだ。労作性頭痛に悩まされ、しかも吐き気がしたり光が眩しいと感じる人は、病院で一度検査をしてみたほうがいいだろう。
その8:イライラ感、感情の激動、集中力の低下
他人に対してつい攻撃的になってしまうという人は、オーバートレーニングの兆候かもしれない。些細なことで口論になったりするのも同じだ。オーバートレーニングは体にとって大きな負担となり、ストレスがかかっている状態であるため、ホルモンバランスを崩す原因となる。それが理由でイライラしやすくなったり、感情の起伏が激しくなったり、集中できなくなることが多くなる。そのような症状が見られたらオーバートレーニングの兆候と判断して、すぐに疲労回復に努めよう。
その9: 気分の落ち込み
トレーニングは肉体だけでなく精神的な挑戦でもある。筋肉づくりに夢中になっている人は、その目的を達成することだけを考えて日々の生活を送っている。それだけ没頭しているから、筋発達の停滞が起きるとそれは一大事なのだ。そうならないように欠かさずトレーニングをしなければならないという強迫観念に襲われてしまい、疲れていてもジムに行かずにはいられなくなる。オーバートレーニングをオーバートレーニングだと認識せず、一時的なスランプだと思い込もうとする。結局休まないから症状は悪化していくばかりだ。やがて本格的なオーバートレーニングの域に達すると中枢神経が過度に疲労し、気分の落ち込みが続き、うつ症状が現れるようになる。
その10: 食欲の減退、体重の減少
トレーニングを開始したばかりの頃は多くのトレーニーが食欲が増していくのを経験したはずだ。ところが、高強度のトレーニングが続くと食欲不振に陥ることがよく見られるのだ。これはオーバートレーニングの兆候でもある。本格的なアスリートに見られる食欲不振は、過度なトレーニングによってホルモンバランスを崩してしまうことが大きな原因のひとつなのだ。食欲不振に陥れば体のエネルギーレベルは当然落ちてしまう。それが疲労回復能をさらに低下させ、オーバートレーニングをさらに加速させてしまうことになるので注意が必要だ。
その11:便の変化
排便から自分の健康状態を知ることができるという話はすでに多くの人が知っている。つまり、排便の状態によってオーバートレーニングの兆候を知ることができるのである。一般的に、体にストレスがかかると腸の動きが変わる。普段よりも水っぽい便が出たり、あるいは便秘気味である場合は体へのストレスが大きくなっていることを意味するので注意したほうがいいだろう。研究によると、運動が激しくなればなるほど、腸への負担も大きくなるそうだ。なぜなら、高強度の運動によって対象筋への血流量が増加すると、胃腸内の血流量が減少し、胃腸の機能を圧迫することにつながるからである。頻繁に高強度トレーニングを行ったり、長時間にわたって過酷な運動を続けたりすると胃腸内への血流量が著しく抑制され、そのせいで便通に異常が見られるようになるということを覚えておこう。
その12:女性の生理不順
女性アスリートの場合、生理不順はOTSの前兆のひとつだ。生理不順が起きるのは、過剰な運動をしばらく繰り返してきたことで体内のエネルギーレベルが低下し、特に鉄分の減少が起きるからだと考えられる。